苦くて甘いバレンタイン


勝気な幼なじみ

京子はいつも活発な女の子だった。

短い髪で走り回っているような、そんなイメージだ。危ないことにも首を突っ込むけど、正義感がとっても強くて。

かといって、女の子っぽくないかというと、そんなこともない。スレンダーでちょっと色黒だけど、泡立つような細かい肌で、しかもどこにもニキビひとつない。

なにより、大きく輝いている茶色い瞳。

…同じ学校で彼女に憧れているヤツなんて、掃いて捨てるほどいる。告白もしょっちゅう受けるらしい。

なのに、彼女は一度も告白をOKしたことがないらしい。曰く、うじうじ告白するヤツばっかで、ちっとも付き合う気にならない、らしい。

そんな僕は、京子の幼なじみ。おかげで、京子の一番近い男子という地位を今までなんとかキープしている。

…まあ、こんな僕でも、彼女が実は大好きだ。でも、それを告白したら…彼女は僕と、もう付き合ってくれなくなるんだろうな。

ドジな僕

かくいう僕は、山田康平。勉強も普通、運動も普通。顔も普通、でも、ちょっとドジで…内気というか。

なんというか、なんでも京子の方が断然上で、おまけにちっちゃい頃から京子に引っ張られて過ごしてきたせいで、京子に逆らえない。

こないだも、学校で財布を落としたのを、京子が僕まで届けてくれた。僕が、「財布ってよく落とすんだよね」、なんていってると、京子は綺麗な眉毛を逆八の字にして、

「そんなの、よく落としたりするんじゃないわよ! しっかりしまっときなさいよね!」

と、怒られてしまった。もっともな話なので、ゴメンナサイ、と謝った。京子は、ちょっと妙な顔をしたあと、しょうがないわね、というような顔で去っていった。

またあるときは、日直で授業に使うプリントを運ばされていたとき、うっかり階段のところで運んでいたプリント全部を落としてしまったことがある。そのときの日直のペアがたまたま京子で、「あ〜もう…しっかりしてよね」と言いながら、僕より速く動いて散らばったプリントを元通り山にすると、今度は自分で僕の方のプリントの山を抱えて持っていってしまった。自分の分は自分で持っていく、と言ったのだけど、京子はずんずん歩いていって、結局持たせてもらえなかった。

こういうわけで、京子はいつでも僕の保護者みたいにして僕の世話を焼いた。京子はそれを義務みたいに思ってたところがあるし、僕は僕で京子に甘えていたところがあったと思う。

高校入学

さて、そんな僕たちだったけど、高校に入った後ではひとつだけ変わったことがある。それは、僕自身の外見のことだ。

僕は運動部に入って陸上をやるようになり、少しはその影響もあるのだろうか、体格は大きくなり、背はあっという間に京子を追い越して(じつのところ、僕は女子の間で背の低い方に入る京子よりもずっと背が低くて体格も小さかった)、筋肉もついてきた。ようやく、体の大きさだけでも京子を超えられた、という感じだった。

一方の京子はといえば、中学校まで伸びていた背が高校に入ってあまり伸びなくなった。本人は、ずいぶんそれを気にしているらしかったけど、こればっかりはしょうがない。

でも、京子の物腰は中学校時代とあまり変わらず、僕らの関係もあんまり変わっていなかった。僕ら自身、それを当然と思っていたし、ずっとそのままなのだろうと思っていた。

それが変わったのが、今年のバレンタインにあった出来事でのことだった。

これまでのバレンタイン

そのバレンタインのことを話す前に、僕たちのこれまでのバレンタインについても話しておいた方がいいと思う。

まず、僕らは幼なじみなので、お互いの家にもよく行き来していた。

その関連上、バレンタインデーにはいつも京子と京子のお母さんからチョコを貰っていた…、というと、少し語弊があるかもしれない。

なぜなら、京子の分のチョコレートはいつの間にか僕が手伝って作る習慣になってしまっていて、僕が貰うのは、京子と僕の合作のチョコレートだったからだ。しかも京子も、僕にくれたチョコレートを実は僕と一緒に分け合って食べている、という具合だった。

京子は、「チョコを作るのだからついでに」、と普段親しくしている男友達にも義理チョコを作る。もちろん、僕も手伝ってのことだ。

幸いにして、僕はまだ京子に「本命チョコを作るから手伝って」などと言われたことはない。京子には、まだ好きな人とかはいないらしいのだ。一度そういうことをきいたが、あっけらかんと、そんな人いないもん、と言われ、逆にコーヘイこそそういう人いないの?、と訊かれて返答に困った。そのころには、もう京子のことを意識していたので、ごまかすのに苦労した。

とにかく、バレンタインデーが近づくと、僕はいつも京子に呼び出され、買出しや手伝いをさせられていた。今年もまた、2月14日を目前にした日曜日に、京子に呼び出されていたのだった。高校に入ってから入部した陸上部の練習は、日曜の午前にもあったので、僕は京子に日曜日の午後に行くと応えた。

京子宅

その日曜日になり、僕は陸上部の練習を終えた後に、京子に頼まれたものをスーパーに行って購入してから京子の家を訪ねた。

「京子、買ってきたぞ」

「あ、コーヘイ? すぐいくから台所にいっといて」

二階から叫ぶように京子が応えた。僕はいわれたように台所にいった。台所には、京子のお母さんがいて、にこにこしながら僕を迎えてくれた。

「あらコウちゃんいらっしゃい。また、バレンタインのお手伝いなの?」

「はあ…そんなところです」

「いっつも悪いわねえ。あの子ったら、いつになったらひとりでチョコを作るようになるのかしらね」

「うーん…京子は料理とか、あんまり得意じゃないみたいですしね」

「ウフフ、そういうのは関係ないのよ」

僕は怪訝な顔をしたが、おばさんは笑って答えてくれなかった。しばらくするとおばさんは、コウちゃんちのおばさんと買い物に行ってくるから、京子にもそう言っておいてといって出て行ってしまった。

「京子、おばさん出かけるぞ? はやく降りてこいよ」

「もー、わかってるわよ、あとちょっと」

また、二階から京子の叫び声がした。しかし、あとちょっとと言ったくせに、それから実に10分も経過した後、京子はジーンズに若草色のセーターという格好で降りてきた。いったい、上で長い間何をやっていたんだろう、と思ったが、それは訊かないことにした。

手伝い

「じゃ、早速作るわよ」

うでまくりして、京子はテーブルの上にボールと型を出した。僕は、なべに水を入れて火にかけた。

京子と俺がチョコを刻んでボールに放り込んでいる間、僕は京子と世間話をした。

「今年も結構作るんだな。何人に渡すんだ?」

「えっとね、お父さんでしょ、オジサンでしょ、渡辺君に、星野君に、藤原君に…あと、バスケ部の男子と竹田先生に…」

「はあ…どうりで結構多いわけだ、でも多すぎないか、この材料」

「いいじゃない、わたしチョコ好きだし。あ、もちろんアンタの分もあるからね」

「…そりゃそうだろ、余るほど買ってきて何もないとか言ったら怒るぞ」

「あはは、それはないわよ。わたしも食べ過ぎたら太っちゃうし、コーヘイがその分食べてくれないと」

「…へいへい」

作業自体は簡単だ。チョコを刻んで湯せんして、型に流せばよいのだから。型に流した後は、冷蔵庫に入れておけば勝手にできる。むしろ、バレンタインの義理チョコは、包装とかの方が大変な作業だ。

そうして、今年も無事に冷蔵庫を埋め尽くすほどのチョコができ、あとは固まるまで休憩ということになった。

京子の部屋

その休憩の間、僕は京子に誘われて、京子の部屋に入った。

「コーヘイも、あんまりこの部屋に来なくなったよねー」

「あったりまえだろ。もう高校生だぞ」

「そーだよねー。いつのまにかデッカクなっちゃって。チョット前まで、わたしのほうがずっと大きかったのにな」

拗ねるように京子が言った。

「まあでもほら。僕もオトコだし、しょうがないって。いつまでも京子よりちっちゃいと、いろいろ困るじゃん」

「うーん、なんか、コーヘイっていうと、わたしよりちっちゃい!って感じだったから、調子狂うんだよね」

「そんなこと言われてもなあ…」

京子は相変わらず良く喋った。にこにこしながら嬉しそうに話をする京子。そんな京子を見ていると、僕までなんだか楽しくなるから不思議だ。

きわどい会話

「ところでさ、コーヘイももう、高校生じゃない? チョコをくれるような人、いるの?」

「いや…そんなアテはないかな」

「えー、つまんないよ。じゃあさ、じゃあさ、去年か一昨年かに言ってた、好きな人って言うの、その人とはどうなったの?」

「え、いや、それは…その」

僕にしてみたら、京子がまだこんなことを覚えているとは思わなかった。いや、覚えているとは思っていたけど、こういうときにまた訊いてくるとは考えていなかった。

「えー、まだ告白してないの? 言ったじゃない、思い切って抱きしめて、チュッてやってからコクっちゃえば、なんとかなるって」

「…だからさ、それは京子の好きなマンガの話だろ、たしか。現実はそうもいかないんだって」

「えー、そうかなあ? わたしだったら、結構ドキドキしちゃうけどなー」

クスクス笑いながら、京子はそんなことを言う。

もちろん、京子は冗談だからこんなことが言えるんだ。もし自分が、誰かから本当にそんな扱いを受けたら、きっと悲鳴を上げて怖がるに決まってる。まして、僕が相手だったら…? きっと、いつも僕と一緒にいて僕を信用してくれているだけに、ひどく傷つくに決まっている。

そんな僕の複雑な思いをよそに、京子はまだ冗談の話を続けている。

「なーんかさ、大人だったらガバッと押し倒しちゃって、そこから始まる恋愛みたいなのもあるっていうじゃない? 高校生でもキスくらいならそういうのがあると思うんだけどな」

相変わらず、夢見る少女のような感じで、京子はそんなことをいう。

と、京子はそこまで言って、突然その大きな瞳でこちらの顔をマジマジと見てきた。僕は一瞬、自分の想いを京子に悟られたのかと焦った。

だが、そのとき京子から漏れたのは、こんな一言だった。

「でもねえ〜、コーヘイって、昔からドジでいくじなしだもんね。そんなの、ひっくりかえってもできないよね、アハハ」

異変

今思えば、彼女には全然邪気はなかっただろう。現に、彼女の笑顔は何も知らない、綺麗な笑顔だった。単に、冗談のつもりだったはずだ。これまでの僕たちの間では、そんなの、軽いジョークで済んでいるはずだった。

でも、そのとき僕は、どうかしていたんだと思う。

陸上という京子とは全然違う世界にいた後、本当に久しぶりに京子の部屋に入った。目の前には、京子の机とベット。鼻につくのは、甘い京子の匂い。

そして、さっきからの、僕にしてみればきわどい内容の会話。

そんな刺激の後で、最後に京子にあんなことを聞かされたら、京子に反発するような思いがムクムクとわいてきた。

僕は、いきなり京子を抱きすくめた。スレンダーだけど、セーター越しに感じるのは全体的に柔らかくて、胸の辺りにふくらみのある、女の子の身体だった。

「京子、好きだ」

それだけいうと、そのまま京子の後頭部に左手を回し、京子の顔にかかる前髪を右手でかきあげて、自分の唇を重ねた。

急なことで、京子は何が起こったのか全然理解できていない。唇を離した後も、エッ、という顔のままだ。

僕はそんな表情の京子を見ると、ますます腹が立つようで、今度は京子をベットの上に放り出して、上からのしかかった。

京子はその時点で、ようやく身の危険を感じたらしく、怯えた表情をみせた。

京子の怯えた顔を見て、少し心が痛むように思ったが、京子の柔らかさと匂いに心奪われていた僕にはブレーキにならなかった。

セーターを腹からまくり、ブラジャーを露出させ、ブラ越しに胸を揉んだ。

「やあ…ちょっと、止めて」

大声ではなかったが、京子は僕を叩いて抗議した。だけど、セーターの下に隠されていた、見事にくびれたウエストラインや、可愛く膨らんだ胸を包む水色のブラをみせられると、僕には抑えがきかなくなっていた。

そのままブラを上にまくり、直接胸を露わにする。乳輪が小さく、蕾も小さな感じで、京子に似合う全体的に小さくて可愛らしい感じの胸だった。

そのまま、僕は京子の胸を吸う。なんだか甘い、京子の匂いがしていて、僕はスンスン鼻を鳴らした。

「ちょ、ちょっと…ブラジャー壊れちゃう…に、匂いなんてかがないでよヘンタイ」

僕はそんな京子の言葉に耳も貸さずに、一心に京子の右胸を吸い、左胸を揉んでいた。

ヴァギナ

やがて僕は京子からセーターを剥がした。京子のブラを外すのは、さすがに初めての僕には難しくてそのままだった。

でもセーターを脱がせると、スレンダーな上半身がブラのみになり、細くて長い脚を包む下半身がジーンズで包まれているだけになった。京子は赤い顔をして、横を向いている。想像していたよりも、その格好はエッチだった。

僕は京子の股間に顔を寄せた。ジーンズのボタンを外し、中の水色のショーツをあらわにした。

そこは、小さなシミになっていた。京子はどうやら、これまでの行為で、濡れてきているらしかった。

「京子、濡れてきてるよ」

「ヤダ、そんなことない・・・」

京子はイヤイヤをするように手を顔に当てて隠し、首を振った。

その隙に僕はジーンズを脚から抜き、ショーツを強引に脚から抜こうとした。

だが、ショーツは小さいので、強引にやろうとすると破れそうになる。

京子はいや、いや、と言っていたが、僕がショーツを下ろそうとしていることに気がつくと、腰を上げ、脚をそろえてショーツが破れないように協力してくれた。

初めて見る、女のヴァギナ。それも、大好きな京子の…。

僕はたまらなくなって指で京子のヴァギナを広げ、感触を確かめた。そこはたしかに濡れていた。

「いや…さわらないで…恥ずかしい…」

そう言っている京子自身も、抵抗らしい抵抗はせず、ただ脚を広げているだけだった。

疑惑

僕は着ているものを全部脱ぐと、改めて京子にのしかかり、ペニスを京子のヴァギナに押し当てた。京子もその時点で、ハッと気がついて、また怯えた顔になった。

「京子。いれるよ」

「まって…せめて…せめてゴム使って」

「そんなの、ないよ」

「そこ…机の引き出しの3段目の奥…」

言われるままに探すと、たしかにそこに未使用のコンドームが1包あった。

京子はコンドームを探している僕を見て、はじめて勃起したペニスに気づき、慌てて顔を背けていたが、僕がコンドームをみつけてくると、京子は顔を赤らめながらもコンドームを開封し、僕のペニスに丁寧にかぶせた。

「なんだ…やること、やってんじゃん…京子、経験あったんだ…」

あまりにも手際がよすぎる。僕は京子に経験があることを確信し、京子に裏切られた気がして、また腹が立った。

「ち、違うわ、わたし、はじめて…」

「そんなわけないだろ…ホントは、やったことあるんだろ…入れてやるよ、そら」

怒りに任せて、僕は自分勝手なことをいいながら京子のヴァギナを目指した。

誤解

京子自身にあてがったペニスを押し込むと、割と簡単に入り口は見つかった。だけど、入り口は凄く狭かった。

それに構わず、僕は強く腰を押し出した。ペニスの先に、千切れるような嫌な感触がしたが、構いやしなかった。

「イタ、痛い痛い! おねがい、もっと優しく…」

「そんなの…知るかよ」

「ほ、ホントにいたいの、お願い、お願い!」

顔を見ると、京子の顔は何かをこらえているように歪んでいた。閉じた目からは、涙も流れている。

僕はそれに気づいて驚き、ようやくそのときに京子の中で動くのをやめた。

「京子、本当に初めて…?」

「そ、そういったじゃない、信じられない、バカ」

「だ、だって…そのわりには、付け方知ってたし」

「そんなの、保健の授業で習っただけよお…ひどいよお、コーヘイ」

「第一、何でコンドームなんか」

「いつ要るか分からないから、って、ママが渡してくれてたのよお…」

「そ、そんな…じゃあ…ホントに初めて…ゴ、ゴメン、京子」

「謝らないでよ、バカァ…わけ、わかんないよ、もう…はやく、終わってよお…」

「…悪い、京子、あとちょっとだけ動くから」

僕は京子の中を数回出入りした。僕はこんなに気持ちいいのに、京子には激痛しか走らないらしい。出入りのたび、傷口が擦れるらしく、京子は悲鳴を上げていた。

5回抜き差しすると、僕は京子の中で出した。何度も何度もペニスがビクビクし、そのたびに精液が出て行くのが分かった。

京子は、ただ眼を閉じてじっと耐えていた。

事後

僕はそのまま京子の中から抜いた。コンドームには、半分くらいは精液がたまっていた。

それをティッシュにくるんで捨てると、京子自身をティッシュでふいてやった。京子はまだ動けないらしく、気だるそうにするだけだった。

出血は結構あり、京子のシーツが血で汚れていた。

「ひどいじゃない…襲ってくるなんて」

「…ゴメン」

「でも…わかんないの…コーヘイが強引にしようとしてるのに…わたし、全然嫌じゃないんだもん。恥ずかしいけど…嫌じゃなくて…それで、わけわかんなくて」

京子のそんな言葉に、僕はどういえばいいのか、わからなかった。

「…今日は、帰って。あと、わたし、やっとくから」

「でも…」

「お願い。一人にして」

京子の意思は堅かった。僕は、もう黙って帰るしかなかった。

後悔

バレンタインまでの数日。学校に行っても僕と京子は一言も口をきかなかった。

友達には、どうしたんだお前ら、と言われたりしたが、事情なんて、いえるわけがなかった。

京子は時々こちらをみているらしかったが、僕と目が合うと、あわてて反らしてしまった。僕にしても、京子が気になったが、京子と目が合うと目を反らさずにはいられなかった。

…気分は最悪だった。今後二度と、京子と楽しくおしゃべりしたりすることもないんだろうな…。そう思うと、なんであんなことをしてしまったんだろう、という酷い後悔ばかりが沸いてくる。

陸上の練習にも全然身が入らず、顧問の先生に呼び出しを受けた。悩みでもあるのか、といわれたが、言えるはずもなかった。

そうして、飛ぶように数日がすぎていった。

当日

そして迎えたバレンタイン当日。僕は、嫌な気分で眼を覚ました。

最近のバレンタインといえば、京子に本命をもらえるかな、なんて都合のいい妄想をしながら過ごしていたものだ。それが、今年ときたら…。

ボーッとしたまま顔を洗い、歯磨きをし、食事をして登校の準備をした。

母は何を勘違いしたのか、もっとシャッキリしなさい、もらえるものももらえなくなるわよ、と檄を飛ばしてくれたが、とてもそんな気分じゃなかった。

そうして、ノロノロと靴を履き、玄関を開けた。

そこには、誰かが立っていた。

下を向いていた僕は、誰だろう、と思い、ノソリと顔を上げた。

そこに立っていたのは、制服のブレザーに身を包み、マフラーを巻いた格好の京子だった。京子が僕の家に僕を迎えに来るなんて、中学校以来かもしれない。どうしたんだろう、と不安になった。

「コーヘイ、おはよう!」

「お、おはよう…」

どうして、こんなに笑顔なんだろう。どうして、元気一杯なんだろう。

「はい、コレ、コーヘイに」

そう言って渡されたのは、僕が買ってきたのとは違う包装で包まれた、チョコレートらしき箱。

あけてみて、と促されるまま、僕は包みを開く。中には、僕がつくったのとは違うハート型のチョコに、ホワイトチョコで"I Love You"と京子らしい綺麗な筆記体で描いてあった。

「えっとね…わたし……あれから、いろいろ考えたんだけど、…コーヘイのこと、好きみたい。だから…いろいろされても…。
でも、強引にされたり、初めてじゃないだろって言われたのは、ちょっとショックだったけどね。
ねえ、コーヘイ? わたしのこと、好きだって言ってくれたよね? だから…もっとちゃんと、優しくしてくれるなら、わたし…」

最後まで聞かなくてもわかった。僕は、嬉しさと申し訳なさで一杯になりながら、京子の身体を抱きしめて、言った。

「うん、ずっと、京子のこと、大事にする、優しくするよ。だから…俺の、恋人になってくれよ。…その、…あのときは、ゴメン。あと、…ありがとう」

「…バカ、コーヘイ、声が大きいわ。オバサマに聞こえるわよ。でも…うん、いいわ。わたし、コーヘイの恋人になったげる。ううん、なりたいの。これで、いいでしょう?」

「あ…うん、そうだな…。なんだか、嬉しいな」

「フフ、わたしもよ。…さ、そろそろ行きましょ。遅れるわよ」

京子は僕の手を取って、歩き出そうとした。

「あ、でもこのチョコ、どーすっかな」

「そんなの、食べながら行けばいいのよ。包みはカバンにでも入れときなさいよ」

「でも、学校まで10分だろ。ずっと食べながら行くのか?」

「んもう…しょうがないわね」

京子はおもむろにチョコを取ると、半分に割り、半分を自分の口に咥えて、もう半分を僕の口に放り込んだ。

「ほら、これでいいでしょ」

「…お前な、自分で作ったチョコを自分で食ってどうするよ」

「いっつもバレンタインはそうしてるじゃない。さ、そろそろ行きましょ。ホントに遅刻するよ」

京子は笑いながら、走り出した。僕は、それに引っ張られるように、一緒に走った。

高校に入ってから、陸上部に入った。身体も大きくなった。…つい数日前は、関係が壊れるんじゃないかと思うような酷いことをしてしまった。それでも、僕らの関係は、今日恋人同士になったという以外はあんまり変わらないで済んだらしい。

僕にはそれが、とても嬉しいことのように思えた。

2006/1/21 佳情
2006/8/26 「コースケ」>「コーヘイ」に訂正。
2006/10/8 「保険の授業」>「保健の授業」に訂正。フッタ部分の誤りを訂正。
2006/10/11 「放り込んでいう間」>「放り込んでいる間」に訂正。

感想・誤字等はこちらまで。


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