女郎蜘蛛


美女

こんな美人が上司なんてラッキーだ。

配属が決定して、初めに思ったのはそのことだった。

この会社は、大きな声では言えないが美人が少ない。入る前から、社内じゃ恋愛もできそうにないな・・・とセクハラになるようなことを考えていた。それが、こんな美人の先輩と仕事ができるなんて。

幸運っていうのは、思いがけずに転がり込んでくるものなんだな。

「木内君? 頼んでおいた書類、できたかしら」

「あ、できました、こちらです」

「うふ、結構仕事が速いじゃない、明日までかかるんじゃないかと思ってたけど大したものだわ」

わが上司・・・堀川係長は、スーツをきっちり着こなしているのに匂うような色気を漂わせている、営業部の華だった。

外回り

そして配属先が決定してからしばらくしてのこと。

俺は堀川係長と、はじめての外回り、つまり営業に出向いていた。

はっきり言えば、係長だけが営業をして、俺は顔見世のようなものだ。先方も無論新入社員に営業を期待しているのではない。俺の面や出来を見ているだけのようだった。

「こちらの木内は、見込みがあると思ってますの」

係長は、俺の印象を聞かれたときに、毎回そう答えてくれた。それを聞くと、毎回先方も俺の方をまじまじと見る。

「・・・木内君、だったか。こちらの堀川さんは、御社ではやり手と評判なんだ。係長でいるのがおかしいくらいだよ。わが社にきてくれればもっといい待遇をするのに・・・いや、また詰まらんことを言ってしまったな、コホン。とにかく、そんな彼女に褒められるとは、新人ながら光栄なことだと思って間違いないよ」

というのが、営業先の社長に言われた台詞だった。

社長という身分の人にそう言われると、なんだがむずがゆく、居心地が悪い。俺は、精一杯がんばります、と無難な返事をしてその営業先を辞去した。

仕事中の会話

そこでの帰り道、係長は僕に話しかけてきた。

「あの社長さんは凄いわよ。来た人の名前と顔、全部覚えてるんだから。結構御年なんだけど、信じられない記憶力なの。だから、いいことも悪いことも全部覚えられちゃうわ。覚悟しててね」

「はあー・・・気をつけます」

「それと・・・木内君も、社長さんに追いつけとは言わないけど、顔と名前、ちゃんと覚えていってね。キミ、まだ営業部のメンバー全員覚えられてないでしょ?」

「まだちょっとしか経ってませんので・・・」

「ダメよ。一日目でも覚えてる子はいるわよ。きっと木内くん、そういう人の顔と名前を覚えるのが苦手なんだろうとは思うの。でも、これはどうしても営業で必要な能力なのよ。がんばって覚えて頂戴ね」

「わかりました。・・・明日までには」

「ヨロシイ。いい返事ね。じゃあ、明日の終わりに、試験でもしましょうか?」

「え・・・いえ、はい。がんばります」

俺がしゃちこばって返事をすると、係長はクスクス笑った。

「冗談よ。ほっといても、君なら覚えてくると思ってるわ。

ところで・・・今日は木内君、初めて外回りだったわね」

「はい」

「じゃあ、お祝いに、わたしの知ってる場所に行きましょうか。・・・二人で」

「え・・・いいんですか」

「女に二言はないわ。わたしの奢り」

アフター5

係長につれてこられたのは、シックなバーだった。

大学時代にはこんなところに来たことがない。係長に、大人の女性の魅力を感じた。

「こういう場所は、はじめて?」

「はい、初めてです」

「・・・会社の外では、敬語はいいのよ。少なくとも、わたしはイヤ」

「そ、そうなんですか」

「ほら、また敬語になってる」

「す、すみません係長」

俺の答え方が悪かったのか、彼女は膨れてみせた

「もーう。・・・係長、係長って。だいたい、わたしの名前、ホントに覚えてるの?」

「ほ、堀川さん、です」

「・・・下の名前は?」

「あ、亜沙子さん・・・です」

「赤くなってる。・・・かわいいのね、木内君」

チュ、と係長は俺の頬にキスをした。

これって・・・そういうこと、なのかな・・・。俺はキスされた頬を撫でて、ぼんやりした。

「・・・何、ほっぺたのキスがそんなに珍しいの? 顔真っ赤よ」

「え・・・いえ、突然だったので」

「まだまだカタいわね。・・・もっと飲んでよ」

係長はさっきのキスくらいなんでもない、という風にして、酒を注文した。

そうだ。係長は大人の人だ。あんなキスを新入社員の俺にするなんて、なんとも思ってないんだ。

俺は自分にそう言い聞かせた。


係長は、結構強そうな酒を自分と俺のために頼んでいた。

・・・かなりきつい酒だ。係長は、平気なんだろうか。顔には、あまり出ていないけど・・・?

「ところで・・・どう? うちの会社は」

「すごく、やりがいあります」

「そう、嬉しいわ。じゃあ、わたしの下で働くのはどう思うのかしら?」

「係長の下・・・ですか」

「プライベートでは、名前で呼んで」

「堀川さんの下で働けて・・・俺は嬉しいッス」

「・・・光栄ね。じゃあ、わたしと行った、初めての外回りの感想は?」

「え、えーっとですねー・・・」

係長はいろいろと答えにくい質問をして、俺を困らせた。

「・・・木内君。さっきからずっとドギマギしてるわね。木内君なら、こんな場所に女性ときたことくらい、何度でもあるでしょうに」

「あ・・・いえ・・・そ、そんなことはないですよ・・・」

こんな場所にくるのは初めてだし、そもそも俺には・・・。

「ふーん、じゃあ、こういう場所は初めてなんだ・・・じゃあ、木内君・・・あなた、女性経験は、ある?」

流し目をして、係長は俺に迫ってくる。・・・係長ほどの美人に女性経験を尋ねられると、気恥ずかしかった。

「・・・は、恥ずかしいこと、聞かないでください」

「ふーん・・・・・・そっか、まだ機会に恵まれてなかったのね」

係長はそういって、酒を呑んだ。無表情なのか、軽蔑されているのか、その美しい顔をみても判断はつかなかった。

「ぼ、僕は別に・・・」

「もらってもいい?」

「え?」

「わたしが今から・・・あなたの童貞、もらってもいい?」

こんな美女に迫られて、断れる奴はいない。妖しく煌く瞳を見ながら、俺はこの美女と一夜を過ごすことを決意した。

ベッド

ベッドの中での亜沙子は、表の姿以上にやはり素晴らしい女性だった。

酒を呑んでいたのに、赤いルージュの中にペニスが吸い込まれるといつでも硬くなる。ペニスに残るルージュの色が、エロティックだった。

亜沙子の肌はまるで絹のようで、それが極上品であることは言うまでもなかった。

亜沙子はヴァギナにペニスを受け入れ、悶え狂った。奇声を上げながら、俺の下になり、俺の上になり、何度も何度も昇天した。

亜沙子が中を許したので、全て俺は中で出した。最後には、亜沙子は中を懇願し、脚で完全に腰を絡み取って、精液を全て奪い取った。

嵐のような情事の後、そのまま裸で二人は眠りについた。

童貞を奪われるのに、これ以上の相手、これ以上の状況はない。至福のひとときだった。

2ヵ月後

翌日以降も、この夢のような関係は続いた。

優秀なビジネスウーマンである係長は、決して社内では俺を『和彦』とは呼ばない。みじんも、俺と関係している雰囲気を見せない。そして、社外に出て、ホテルに入ると一転して色狂いのような悶え方をする。俺を『和彦』と呼び、俺のペニスを求めて膣を蠢かせる。信じられないギャップだが、俺のペニスひとつで喘ぐ亜沙子は最高だった。


そんな関係が、2ヶ月ほど経った日のこと。いつものような激しい情事のあとで、亜沙子が言った。

「和彦。赤ちゃんが、できたの」

「・・・え?」

「和彦と、わたしの子」

「で、でも、ずっと中でいいって・・・」

「たしかに、そう言ったわ。でも、ピルを飲んでるとか安全日だとかいったことないわよね」

「そ、そんな」

「・・・きっとね、初めて結ばれた日に、この子はわたしのおなかに宿ってくれたんだと思うの。排卵日だったしね」

そう言って、亜沙子は優しくおなかを撫でる。自分の顔から、サアーッと血の気が引いていくのが分かった。

「あ、亜沙子、初めからわかってて」

「そうよ。・・・結婚、してくれるわよね。あ・・・そうそう、わたし、一度離婚してるの。2歳の子供がいるのよ。その子のことも、可愛がってね」

「・・・さ、詐欺だ」

「何が詐欺なの? 中で出していいって言ったこと? それとも、子持ちだってこと?」

「お、俺は安全日でなかったら、中出しなんかしなかった!」

「わたしは排卵日だから、中出ししてって言ったのよ。・・・それに、あなたの童貞は最高の形で貰ってあげたと思ってるけど? それで、おあいこじゃないのかしら?」

「・・・」

「結婚・・・してくれるわよね」

そういって、亜沙子は婚姻届を出した。妻の欄には亜沙子の署名があった。そして承認の欄には、なんと俺たちの会社の社長の署名と、取引先の社長の署名があるではないか。

亜沙子がこの二人に結婚報告をしたのは明白だった。

言い知れぬ恐怖を感じながら、俺はその婚姻届を見ていた。

2006/1/31 佳情。

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