フランスのある小さな教会でのことである。
その教会には、等身大のマリア像があった。長いローブをまとい、足と手を僅かに出した典型的なマリア像だ。その両手は軽く広げられており、イエスを抱く姿ではない。
像が比較的最近の作であるということ以外、何の変哲もないマリア像だった。
しかし、奇妙なことというのはどこにでも起こり得るものだ。このマリア像にも、普通では少し聞かないような「奇蹟」があった。この像は、大っぴらにはされていないものの、ある意味では名高い像なのである。
この話の主人公は、このマリア像ともう一人、この教会にかつてやってきた神父である。今ではこの神父は信仰を捨てている。これから話すような事情を思えば、捨てざるをえなかったというべきであろう。
彼とマリア像の出会いは、教会にやってきてすぐのことである。マリア像は教会の玄関近くにあって、安置されたまま放っておかれていたのだった。
この神父が教会にやってきたときも、マリア像は無造作に置かれていた。しかしながら、この心優しい神父はマリア像をみて、「教会のような場所に置かれているものにしては、非常に美しいものだ」と好感を持ったのであった。
さて、この神父が教会にやってきたのは20世紀の終わりにやや近いころである。当時は、どこの先進国でも、あまり人々は信仰熱心ではなかった。フランスのこの地域も例外ではない。人々の足は教会には向かず、世俗の楽しみに向けられていた。
神父は真面目なカトリック信者だった。神父として、その地域で熱心に活動し、勤めを果たそうとした。
しかし、彼が神父の職を続けるにはその時代はいささか不適当だったというべきだろう。彼は、活動を続けても思ったほど信仰を集められないことに絶望しはじめたのである。
そうした中で彼をいつも温かく迎えるのは、あのマリア像だった。マリアはいつも彼に微笑んでいる。マリアについて、それほど思い入れが深いわけでもなかった彼も、玄関に出入りするたびに微笑を見せるマリアにいつしか支えを見出していった。
だがこの時点では、かれはマリア像に親愛の情を感じこそすれ、特別な思いを抱いたりはしていなかった。
事件のきっかけは、その時期のとある日に起こった。
彼は、永らく会っていなかった旧い友人の家に招かれた。友人は宗教者ではなく一般の人間であり、妻と子供に囲まれて暮らしていた。友人は俗人として、ささやかながら幸せを掴んでいたのだ。教会の神父のように、若いころから神父を目指し結婚もせずにきた人生とは大きく違う人生を歩んでいた。
地域住民の信仰を得られずに苦しんでいたこの時期に、そんな友人の暮らしを目の当たりにしたのは神父の不幸というべきだっただろう。地域住民に適当にあしらわれ、そのことを神に祈っても何の返答もえられない。自分の祈りは聞き届けられていないのではないかというような疑問を持ち始めていた神父・・・。
彼にとって、幸せそうな友人の暮らしは、衝撃的だった。
こうして友人宅を辞した神父は、誰にも言えぬ悩みを抱えることになった。自分の教会に戻ってきた彼は、今日もマリア像に出迎えられる。しかし、気分は晴れなかった。
(どうしたら、いいのか)
初めから、自分に神父など向いていなかったのではないか。しかし、信仰を捨てるにはもう遅すぎる。・・・どうすればよいのか。
玄関に立ち尽くしたまま、彼は思い悩んだ。
マリア像は、相変わらず微笑んでいた。
(・・・あの友の妻は、友をいつもこんな風に暖かに見守っているのだろうか。だとしたら、わたしも家庭を持つべきだったかもしれない・・・)
そこまで考えて、彼は玄関から奥へと歩いていった。
その夜。彼は奇妙な夢を見た。
自分が神父を志す前に戻っている夢である。そして、傍らには自分が愛し、自分を愛してくれる女性がいた。その女性の顔は、あのマリア像がそのまま生を受けたようだった。まさしく、生き写しだったのだ。
彼は、女性と愛し合い、一般の人間として結婚した。いつも自分が執り行っている結婚式。その式に、自分が当事者として参加することになるとは、彼も意外だった。
結婚式には、彼が今日訪れた友人も出席してくれた。友人も喜んで、結婚を祝してくれていた。
そうこうするうち、若い夫婦は夢の中で初夜を迎えた。
当然のようにマリア像そっくりの彼女は処女だった。
彼はベッドの上で彼女の着物に手をかけた。だが、そこで彼女は抵抗した。
「おやめなさい。今なら、止めることができます」
「何を言うのだ、妻よ。わたしたちは結婚したのだ、止める必要などないだろう」
「・・・いいえ、あなたは教会の神父。結婚など、ほんの泡沫の夢に過ぎません。
あなたが今日嘆いているのを見て、わたくしはあなたに結婚の夢をみせてあげたのです。しかし、これ以上はあなたの信仰が汚れてしまいます。
わたくしを抱くのなら、信仰を捨てるつもりで抱くのです」
「馬鹿な・・・お前は妻で、わたしは夫だ。夢などであるものか」
「あなたは神父です。あなたも、本当は気がついているはずです」
マリアはベッドの中で神父を諭した。
神父はうすうす、これが夢であり、マリアの告げることが真実だとわかりはじめた。
これは、はかない夢に過ぎない。
しかし、神父は悲しい目でマリアを見上げた。
「マリアよ。しかし、これは夢ではないか。夢なのだとすれば、今、お前を抱いたところで罪にはならないだろう。どうか一晩、わたしの本当の妻にはなってくれないか」
マリアは神父のこの言葉を聞いて驚いているようだった。
「神父よ。かりにあなたがわたくしを組み敷くというのなら、わたくしはあなたが信仰を捨てた証を世に示しましょう。それでもよいというのなら、わたくしを抱きなさい。それほどの覚悟があるのなら、わたくしはあなたに抱かれましょう・・・。
あなたがわたくしを愛し、憎からず思い始めていたのは確かなのですから」
神父はマリアが示す『信仰を捨てた証』という言葉に引っかかった。しかし、マリアは眼を閉じ、神父の腕の中にいる。まだ一度も女性に触れていない神父には、この試練は厳しすぎるものだったのかもしれない。
彼はマリアを抱きしめ、キスをした。
そして長いローブを脱がせ、マリアを全裸にしたのである。マリアは眼を閉じていたが、逆らいはしなかった。
マリアの胸を愛すると、彼女は艶かしい声をあげる。フルートのような美しい声音に、彼は酔った。
「アアア・・・」
神父は自問した。どうして、ここまで克明な夢を見られるのであろう? 自分は一度として、女性に触れたことがないというのに。しかし、夢の中で触れるこの妻の柔らかな胸はどうだ。あのマリア像の服の中が生きた肉を受ければ、必ずやこのような感触であろう。
神父はマリアの胸に夢中になり、マリアの胸を吸い、揉んだ。柔らかなマリアの胸は、神父をとりこにしていた。
そして彼はマリアの秘所に手を伸ばした。そこは温かく湿り、もう神父を受け入れる用意を整えていた。
「マリア。わたしを、待っているのか」
「わたくしはあなたに踏みとどまってほしいのです。しかし、あなたが信仰を捨ててまでわたくしを愛そうとしているのですよ。待たずにはいられません」
眼を閉じたまま、マリアは答えた。
その答えを聞いて、神父は、マリアの温かく湿ったヴァギナに自らのペニスをあてがった。
・・・マリアそっくりの女性を貫くなど、たしかにこの妻の言うように信仰を捨てる覚悟が必要なのかもしれない。しかし、夢の中の彼はそんな背徳感でさえ、快楽へのエッセンスだとしか考えられなかった。なにより、この愛する新妻を自分のものにしたくてたまらなかったのである。
妻を自分のものにする喜びで、彼のペニスは打ち震えた。そして、彼のペニスが力強くマリアを貫いた。
「アアアアアアアアア!」
マリアが悲鳴を上げ、処女を破られた。
夥しい処女血が流れた。処女血は彼女の膣を赤く染め、彼のペニスを染め、彼女のまとっていたローブを赤々と染めた。
激痛に喘ぐマリア。しかしマリアはしっかりとシーツを掴み、痛みに耐えた。
一方の彼は、初めてペニスを粘膜に包んでもらうことができ、その感覚に感動していた。そして、初めての性行為に没頭していき、ペニスを抜き差しする作業に夢中になった。
彼には、妻の激痛を訴える声でさえ、快楽の一因としてしか認識できない。
おお、この世にこれほどの快楽があったとは。信仰など、これほどの快楽の前にはどれほどの価値があろう。
自分の大きく膨らんだペニス。それを締め付ける新妻の肉。それらがもたらす快楽は、天国以上ではないのか。
女性と交わることが、これほどに心地よい行為であったとは。
彼は怒張をマリアに突きこみ、そのたびに快楽を感じた。
一方のマリアは、ただ痛みを訴え、涙を流すのであった。
やがて、神父の方に限界が近づき、愛の交わりは終わりを告げようとした。
神父は高らかに、妻に宣言する。
「おおお・・・妻よ、妻よ、いまわたしの子種を注いでやるぞ!」
「・・・・望みのままにしてください、もはやあなたは後戻りできないのですから・・・せめて、存分にわたくしを愛してください!」
マリアは彼を力強く抱きしめ、腰に足を絡みつかせた。マリアは痛みにも耐えて、彼を中に受け入れようとした。
そして、その瞬間、彼は射精を予感した。
これまで味わえなかった性の喜びを取り返すのだ。
「うおおおおおおおお! 出る、出るぞマリア! 受け取ってくれ!」
「あなたのものを・・・・注いでください!」
彼は雄たけびを上げ、彼女の膣に大量の精液を注ぎ込んだ。
信仰を、マリアを汚す。今まで全身全霊をあげて信じていたものを、自らの精液で白く汚すのだ。その背徳感は、恐ろしいほどのエクスタシーを神父にもたらした。
彼の頭の中には、マリアの子宮が白い液体に満たされ、マリアが堕落していく姿が映っていた。自分がマリアの初めての男になる。マリアを汚す。
まさに至福だった。
しかし一方で、相手を省みないような乱暴な性交に処女が耐えられるはずもない。マリア像そっくりの彼女は、最後まで痛みゆえの涙を流しつづけていた。
行為を終えてみると周りは酷い状態だった。とくに、彼女のローブは、彼女の赤い処女血と、彼女のヴァギナから流れた処女血と精液の混じったピンク色の液体に汚れていた。
なにか、とんでもないことをしたのではないか。
それをみたとき、神父は不吉な感覚がよぎった。
同時に、射精後の脱力感もあって、彼は後悔にさいなまれはじめた。
そのとき、マリアが神父に告げた。
「あなたがわたくしを愛してくれたこと、決して忘れはしないでしょう。しかし、あなたが信仰を捨てたのは事実。初めに告げたように、わたくしはその証を世に示します。もはやあなたはここにはいられなくなるはず・・・。
行きなさい。現実に帰りなさい。
それでも・・・一言だけ伝えておきます。わたくしもまた、一夜だけでも、あなたのかりそめの妻となれて・・・幸せだった・・・」
マリアは涙を流しながら、神父に口づけした。
そして間もなく、神父は目を覚ました。
翌朝、神父が目覚めると、激しく夢精した後が下着に残っていた。
べたべたした感触に不快感を覚えながらも、下着を取替える。最近ではこんなに激しい夢精はなかったことだけに、違和感を覚えはした。しかし、あんな夢のあとでは当然ともいえるだろう。
神父はそう納得した。
朝の一連の日課をほとんど終えてから、さらに日課にしている朝の散歩に出かける際、彼はふとマリア像を見た。
そして、大きな衝撃を受けた。
マリア像は、泣いていたのだ。朝露がマリアの目から流れ、涙のように筋を作っている。そして、マリア像のまとうローブの股間に当たる位置には、赤い物とピンクの物が生々しくこびりついているではないか。
大声で彼は叫び、マリア像の前に膝を突いて赦しを請うた。ガタガタと振るえるその様子は、死刑宣告を受けた罪人のようだったという。
騒ぎを聞きつけた人が集まってきて、神父の様子に驚き、マリア像の異変に気づくのは間もなくのことであった。
そのあとのことは、多くを語るまでもないだろう。
件の神父は、カトリック教会からやってきた上級の聖職者の前で懺悔を行った。しかし、話が話だけに扱いは微妙である。マリア像の異変のこともあったが、それでもなお神父のことが『罪』になるのかは微妙であった。
それは、彼がまれにみるほど信仰熱心な神父だったことが原因だった。夢の中の一度だけの行為を厳罰に処するのは、酷に過ぎるという意見が出された。
しかし一方、本当にこの怪異が真実なら、即刻この神父は十字架を捨てねばならないであろう。夢の中とはいえ、マリア像を犯すなどという行為は、時代が時代なら死刑である。
教会側も、この件をどう扱うか、さすがに決めかねているようだった。そんな中、しかし、当の神父は懺悔を終えた後すぐに信仰を捨ててアメリカへと去ってしまった。
そのことをもって、教会側も厄介払いをしたかのようにこの事件を不問としたという。
マリア像は聖布で清められ、再び教会に安置された。汚れたマリア像を目撃した者も、無気味に思いながらそれを黙ってみているほかなかった。しかし、嘘か真か、マリアのローブは、いまでもわずかに紅い染みをみてとることができると言われている。
そして、冬の寒い日になると、件のマリア像にも朝露が張り付くが、それは涙を流しているようにみえるのだという。もっとも、それは例の神父が教会にやってくる前からそうだったのだともいわれるし、また違うともいわれる。
いずれにせよ、今や全ては曖昧なまま、忘れられようとしているのであった。
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