初めて彼女に会ったのは、電車の中だった。
それほど込んでいるわけでもなかった車内で、彼女はスラリとした長い脚をスカートから伸ばしていた。
半袖の制服から覗くのは、やはり細い腕。
長いまつげに彩られた目が大きく、唇は引き締まっていた。
まだ幼げな顔で、背も低い。
しかし、その表情は気だるげで、ゾクッとするほど色っぽいものだった。
初めは、自分とは違う世界の高校生の少女だと思っていた。
何かしらひきつけられるものがあったとしても、何のきっかけもなく、魅力に誘われて彼女を追い掛け回すようなことはなかっただろう。
だが、彼女がハンカチを落とし、それを拾ったとき、
「ありがとうございます」
と、目を合わせて彼女が笑った。
眩しい笑顔だった。
実は毎日ほぼ同じ時間に朝の電車に乗っていた僕と彼女。
それ以来、彼女の方を毎日盗み見ては、どうしようもない思いを高めていたのだった。
彼女にそれ以来声もかけられない臆病な俺とは別に、彼女は毎朝嬉しそうに学校に向かっていた。
彼女に恋をしてしばらく彼女の様子を見ていた俺には、その理由はすぐにわかった。
・・・彼女は、毎日電車の中で同じ高校のとある男子生徒と一緒になっていて、その男子生徒に恋をしていたのだ。
彼女が真剣な目をして彼を見つめていることは、彼女を毎日盗み見ていればすぐに分かることだった。
全く落胆しなかった、といえば嘘になる。
だが、大人には大人の態度というものがあった。高校生の小娘に恋着して、あげく、その片思いの相手にみっともなく嫉妬の炎を燃やすことなどできるわけもない。
彼女は恋する男子生徒を見て、俺は彼女を見つめる。
それで精一杯だった。
そうこうするうち、異変があった。
彼女は電車の中で彼に手を振るようになり、彼もそれに応え始めたのだ。
車内で世間話をしたりする様子は、あきらかに二人が付き合い始めた証拠だった。
しばらくして、二人はおそろいの指輪を左手薬指に嵌めた。
いよいよ、彼女と彼が付き合っているのは明白だった。
・・・手遅れか。
俺はそれまで声をかける勇気もなかったくせに、心中で悪態をついた。
男子生徒は髪をわずかに茶色く染めている。といっても、ワルではないだろう。さっぱりとしていて、真面目そうな印象を受ける。
彼女は髪を少し巻いていて身体のスタイルもいい。二人が並ぶと華やかな雰囲気で、今風の似合いのカップルが出来上がる。
・・・客観的にはそう見ざるをえない。
だが、あんなガキに・・・という気分は抑えきれなかった。
あの華やかな彼女を、あんな高校生のクソガキが持っていきやがった、と思った。
いくら彼女がもとからヤツのことを好きだったとしても、憎たらしいったらない。
だが、そんなことを口に出していったりできるほど俺もガキではなかった。
それでは、高校生どころか中坊ではないか。
毎日毎日、イチャイチャしている二人組をよそに、俺は我慢を続けた。
彼女とヤツが付き合い始めて、夏休みが過ぎ、学期が始まってしばらくという頃のことだった。
その日は、朝から飛び込み自殺があり、電車は遅れ、人はいつも以上に乗ってすし詰め状態だった。
俺と、彼女とヤツは、同じ列車の近くだった。
さすがに二人は喋ることもできず、他の乗客と同様に困ったような顔をしてすし詰め列車に揺られていた。
男のほうはともかく、彼女の方をまだ嫌いになっているわけではなかったので、
(こんな列車に乗る羽目になって、可愛そうにな)
と思ったりしていた。
そんなことを思いながら、俺は隣の乗客に押されて嫌な顔をしたり、窓の外を眺めたりしながらすし詰め列車をやり過ごしていた。
そうしながら、彼女の方をたまに見て。
だが、俺は彼女の様子がおかしいことに気づいた。
「は・・・ああ・・あう・・・」
かすかに、彼女が声を漏らす。
頬は上気して、まるで感じているようだ。
その後ろで、男子生徒は征服者のような顔をして、腕を動かしている・・・ようにみえる。
その動きがどういう動きなのか、はっきりと断定はできなかったが、俺は感じた。
この二人・・・この状況を狙って痴漢プレイをしているんだと。
正直なところ、この少女が処女だとは俺ももう思ってなかった。
この男子と付き合い始めたのが1学期の中ごろ。どんなに晩生でも、夏休みを過ぎてさらに可愛く美しくなって、オトコの愛情を受けたような顔つき・体つきになっていれば、性の体験の存在を意識しないわけには行かないだろう。
嫉妬の嵐が吹き荒れそうな想像だが・・・二人は機会があればセックスをしているに違いない、と俺は思っていた。
もっとも、朝の電車の二人は、清潔なカップルでしかない。だから、俺もなんとなく彼女に淡い想いを持ちつつ、二人を眺めていたのだった。
それが今、どうしようもないようなことをはじめているのだ。
目の前の、清潔な彼女が、まるで倦怠期のカップルがやるような変態的なプレイに身を焦がしている・・・。
嫌悪感のようなものを、俺は感じた。
だが同時にそれは、何故か激しい勃起を伴うものだったのだ。
「ああ、・・・・うう・・・あ・・・ああ・・・・」
耳を澄ましていると、彼女ははっきりと声を漏らしている。
感じているのは、間違いなかった。
「も・・・もう・・・がまんできない・・・い・・・い・・・」
「ダメだ、ちゃんといえ」
「いや・・・そんなの・・・」
「・・・・ほら、いつものように」
「・・・沙耶の・・・エッチなオマンコ・・・いか・・・せて・・・」
「いいだろう。・・・イケ」
「っ!! うむう!」
その後、彼女は、ハ、ハ、ハ、と荒い息を吐きながら、電車の窓に顔を押し当てていた。
あの清純そうな彼女が、『オマンコ』『イカセテ』などと口走ったことが、俺には衝撃的だった。
俺は、彼女や男子生徒にばれそうになるのも忘れて、二人の痴態を凝視していた。
その数分後、彼女と彼氏は電車を降りて行く駅に着いた。
彼氏の方は、スンナリと降りていった。
だが、彼女の方は・・・。
俺のほうを向いて、いつかの日のように、微笑んで見せた。
・・・だが、その微笑みは、あの日に比べて妖しげな色気をみせていた。
その後、彼女は人ごみにつられるようにして出て行ったが、そのとき、彼女の口がパクパクと動いていたような気がする。
つまり、
(い・く・じ・な・し)
と・・・。
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