わたしは
神足家の長女で、高校2年生。
そして、・・・博也君、谷崎博也の、・・・恋人、だ。
わたしは、ちょっと背が高い。
背の高さは、彼氏である博也君よりも少し高い。
彼がこのことを気にしているのは、なんとなくわかる。けど、彼は男子の中でも背が低くて、わたしは女子の中でも背が高めなのだからしょうがないと思う。
わたしの耳は、人よりもかなり長い。俗にエルフ耳と呼ばれているような耳だ。・・・エルフが本当にいるのかは知らないけど、こんなに長い耳をしているのはわたしくらいだと思う。
耳のことでいじめられるようになってから、この耳が嫌いになっていた。
同級生には冷やかされ、気味悪がられた。教師にもわたしを嫌がる人はいた。
ある教師は、説教のときに、いきなり耳をつかんで、思いっきり引っ張ってきた。
・・・この耳は、普通の耳よりかなり繊細にできていたらしい。
耳を引っ張られたとき、頭が割れそうに痛み、内臓がひっくり返るような不快感と嘔吐感に見舞われた。その後ふらふらしながら保健室に行く途中、わたしはトイレで嘔吐した。
そう。本当にこの耳は繊細にできている。
近くで大きな音を出されると、気が遠くなる。
そのかわり、人が聞こえないような音まで聞こえる。
ただ、それは、人の悪口や秘密まで聞こえてしまうということで。
わたしは耳を隠し、なるべく人の声も意識しないようにして過ごしてきた。
その方が、人にもジロジロ見られずに済む。
小さい頃は何でもなかった視線も、近頃はすっかり嫌になってしまった。
本当に、この耳は邪魔モノだと思っていた。
そんなわたしの耳を褒めてくれ、宝石みたいだと言ってくれたのは、博也君だった。
彼に初めて耳を見せたとき、彼はそれを気持ち悪いとは言わなかった。それどころか、綺麗だと言ってくれた。
わたしの耳を、・・・わたし以上に愛しく見つめる彼をみて。
わたしは初めて、他人に耳に触って欲しいと思った。
・・・今でも、彼以外に耳に触って欲しいとは思わない。
彼と結ばれ、恋人同士になるのは自然な流れだったと思う。
そして、今の学校でクラスの一員として溶け込めるようになったのも・・・彼のおかげだと、思っている。
今回は、クラスの中でのわたしと友達との会話のことを話そうと思う。
そのとき、教室には、わたしと、紀子(山崎紀子、学級委員長)、そしてハルカ(松田晴香)の三人がいた。
わたしが髪の中から耳を出して登校したあの日。その日からすぐに、わたしたちは仲良くなった。
小さい頃は当たり前だった、普通の仲のよい関係。わたしには、それが嬉しかった。
きっかけは、紀子の一言だった。
「わたしの彼氏、わたしに耳掃除させるのが好きなのよね」
耳掃除。
男の人が、女の人の膝に頭を載せて、耳垢を取ってもらうアレ。
紀子のセリフに続いて、ハルカも言った。
「男の子ってさ、みんな耳掃除好きだもんね。耳掃除をしてもらうのに憧れてる、みたいなところがあるんじゃない?」
それを聞いて、紀子は頷く。
「それは、あるわね・・・。彼氏に一回やってあげたのが悪かったのかしらね。一ヶ月に絶対一度は頼んでくるのよ。あれ、結構邪魔臭いんだから」
「・・・ふーん、そんなもんなの?」
ハルカはどうやら人の耳掃除をしたことはないらしい。
そんなハルカに、紀子は、そんなものよ、と言った。
「だって、頭って結構重いし、耳の穴の中って結構細かいから精密作業だし」
「自分でやる分には好きなんだけど。人にやるのって違うの?」
「全然違うわよ」
そんな感じで、紀子とハルカが盛り上がっていた。
ハルカが嬉しそうに訊いてきた。
「文子はどうなの? 谷崎君に、耳掃除してあげたこと、あるの?」
「え・・・あ、な、ない、かな」
わたしは、一応は正直に答えた。
耳掃除に関しては、いろいろと話すのが恥ずかしいことがあったから、少しどもった。
わたしは彼に耳掃除をやってあげたことはない。そう、『やってあげたこと』はない。
だけど、その、何というか・・・『やってもらったこと』はある。
そもそも、わたしは自分で自分の耳掃除をあまりやらない。
理由は簡単で、だんだん気分が悪くなったり、凄く痛い思いをしたりするからだ。
母は耳掃除が上手だったが、一人暮らしになってからは母にやってもらうこともなくなった。
それ以来、耳掃除とはご無沙汰。
でも、あるとき、なりゆきで耳掃除をやってもらったのだ。
それ以来、わたしはずっと彼に耳掃除をしてもらっている。
それは、彼がソファに座り、その隣にわたしが座っていたときのこと。
わたしは彼にもたれかかり、そのまま彼の膝に頭を乗せ、目を閉じた。
「・・・神足さん」
「なに?」
「眠いの?」
「別に・・・」
眠くなくても、こうしたくなるときくらい、あるじゃないの。
「じゃあ何で?」
「・・・・・・」
答えるのが面倒なので、わたしは黙っていた。
「もしかして、耳掃除とか?」
どこからこんな発想が湧いて出るのか。
まあ、それはいい。
彼なら、まあ滅多な耳掃除はしないだろう・・・わたしは目を閉じたまま、考えていた。
やがて彼は、わたしの頭をソファに降ろした(もう、いい気分だったのに!)。
そして、どこからか耳掻きを持ってきて、またわたしの頭を膝に乗せる。
そして、彼の指がわたしの耳に触れた。
いつものように、甘く疼くような感覚が、耳から全身へと伝わる。
続いて、耳掻きらしきものがわたしの耳の穴に入ってきた。
自分でやると、耳の壁にぶつけてしまったりするが、彼はそんなことはしない。
そして、奥の方で何度かそっと壁に耳掻きが当てられ、耳の外に耳掻きが出て行った。
なんともいえない、心地よい感覚。
母にしてもらったのとはまた別の、心地よさだ。
「痛くない?」
博也君が、わたしに尋ねる。
「ううん。ちっとも。気持ちいいわ」
わたしは甘えるように声を出した。
そんな感じで、左耳と右耳、両方耳掃除をしてもらった。
耳掃除は、好きだ。
なんというか、博也君が傍にいて、じっとしていられるので。
なんとなく、彼に無防備な耳をさらすというのも、悪くない感覚だ。
・・・エッチの時のような耳へのキスとか指での愛撫もいい。だけど、これはこれで別の充実感がある。
あんまりやると外耳炎になったりするらしいので、彼も1週間に1度くらいしか応じてはくれない。
でも、わたしの家には耳掻き数本と綿棒・ベビーオイルなどが、ソファの手の届くところに並ぶようになってしまった。
ちなみに、これだけ設備が整っているが、彼の耳掃除はやったことがない。
わたしは耳を触られる役であり、彼は耳を触る役。
それは、「いつでも」同じだ。
だけど耳掃除って、やっぱり女性が男性にやってあげるものなのだろうか。
うーん。
わたしが長い間止まっているので、紀子もハルカも興味深そうな目でこちらを見てくる。
「ははーん、なにかあるわね」
ハルカが嬉しそうに言う。
「そうよね。何を隠してるのかしら」
紀子のメガネがキラリと光った気がする。
「い、いやねえ。何も隠してないってば」
わたしはそう言ったのだが。
「あのね、文子。あなた、気づいてないかもしれないけど、緊張するとすぐ耳がピーンって立つのよね」
「え」
「そうそう。見てて可愛い癖だけど、隠し事はできないわね。
あんまり抵抗しない方がいいわよ」
おかしそうに笑う紀子とハルカ。
・・・わたしって、そんなに分かりやすいのかしら。
自分の耳をそっとなでながら、わたしは渋々白状することにした。
「えっと・・・耳掃除は、本当にやってあげたことはないの。でもその、やってもらってるっていうか・・・博也君が、わたしの耳掃除をいつもしてくれるの」
そういうと、紀子とハルカは顔を見合わせた。
「そんなに、ヘン?」
「ヘンとはいわないけど・・・普通逆でしょ」
「まあ、文子ならわかる気もするけど? だって、文子って谷崎君の影響で、皆に耳を見せてもいいかなって思えるようになったんでしょ?
そこまで想ってるんだったら、谷崎君に耳を触って欲しいっていう願望があっても不思議じゃないわ」
紀子がわたしの願望をずばり指摘した。
「そうそう。谷崎君だけに許してる秘密の行為ってヤツ? たまに耳に触ってもらえないと、だんだんイライラしてきちゃうとか」
ぐへへ、という感じで笑うハルカ。
どちらも本当のことなので言い返せない。
・・・耳に触ってもらうとか、耳掃除をしてもらうとか。わたしと博也君には、かなり重要な触れ合いなのだ。
「ま、まあ・・・博也君に耳を触ってもらうと、すごく落ち着く感じはするわね」
「ふーん、落ち着くねえ。それだけじゃないでしょ、きっと」
紀子が嬉しそうに言ったので、わたしはギクリとした。
「何も、ないわよ?」
「嘘でしょ。また耳が立ってるわよ。
・・・文子の耳って特別でしょ? だから・・・耳なんか、谷崎君に触られたり舐められたり、噛まれたりするだけでもう蕩けそうになるんじゃない?」
顔が真っ赤になっていくのが、わかった。
「ふ、普通に触ってもらう分には、大丈夫よ!」
わたしはそう言った。
「じゃあ、普通でなかったら?」
「い、いえない・・・」
恥ずかしすぎて。
「要するに・・・そういうことなのね」
そう言って、紀子はウンウン頷いた。
その手の経験がないハルカは、真っ赤になっている。
でも、一番恥ずかしいのはわたしだ。
わたしは、何日か前にソファの上で彼に抱かれたときのことを思い出してしまっていた。
・・・そのときは、耳を触られて、そのままエッチにもつれこんでしまったのだ。
彼とわたしは、ソファの上でやっぱり隣同士に座っていた。
わたしはボンヤリ、彼の体温を感じていた。
そんなとき、突然。
「神足さん」
「あっ」
彼がわたしを抱き、わたしの耳の裏に手を当てて、耳を覆う。
とっさに逃げようとしていたわたしの身体が、動かなくなる。
博也君は容赦なく、耳に舌を這わせた。
「イヤン・・・あん、ダメ、だって」
そう言ってみるが、耳たぶや耳の小骨を舐められているだけなのだ。
「アン、イヤ、・・・もう、」
「・・・そろそろ、して、ほしくなかった?」
フッ、と彼が耳に息を吹きかける。
「もっと、甘えて、可愛いところ見せてほしいな」
「・・・もう、かっこつけちゃって・・・」
そう言ってみたけど、ただの強がり。
もっと博也君に甘えて、素直に何もかも曝け出したくなる。
身体の中が融けてしまいそうなほど、急速にわたしは高まっている。
博也君が、わたしの唇にキスをした。
わたしは、熱烈に彼を迎える。
彼がほしくて、たまらない。
彼はつい、とわたしの唇から離れた。
そのまま、彼はわたしの目を見た。
そのまま、彼はわたしの左の耳へ。
口を大きく開けて。
彼は、唇で、わたしの耳に噛みついた。
「アン!」
小さく声を上げ、わたしはブルブルと体を震わせた。
軽く、達してしまったのだ。
「可愛いよ、神足さん」
最近の博也君のマイブームは、エッチの途中に『可愛い』とわたしに言うことらしい。
・・・恥ずかしがって喜ぶわたしを見るのが嬉しいらしい。
嫌な性格・・・。
だけど、・・・全然イヤじゃないと思ってしまうわたしもどうなんだろう。
ちなみに、会話の途中でいろいろと思い出してしまったわたしは、本当に紀子とハルカの顔を見られなくなってしまった。
二人にどう思われたのか、ちょっと不安。
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