日曜日のデート - 耳7【60万ヒット記念】


待ち合わせ

日曜日。

よく晴れた空。

小さな駅の前で、神足こうたりさん」が僕を待っていてくれた。


これでも、待ち合わせの15分前なんだけど。


「お待たせ」

「・・・少し、待ったわ。早く来すぎちゃった」

自分が早すぎた自覚があるのか、神足さんは苦笑して言った。


今日の彼女は、私服では珍しくスカートを履いている。深い青のプリーツスカートに、黄緑色のセーター。

普段、僕が彼女の部屋にあがっても、彼女はラフな格好をしていることが多い。それだけに、こういう格好をしてもらえると結構嬉しい気がする。


「行きましょうか」

「そうだね」


今日は美術館に行くつもりだった。なぜ美術館なのかといえば、まあ理由は長くなる。単純に言えば、美術の先生からチケットを2枚もらってしまったからなのだ。

美術の先生と僕らとは、何故かいろいろと話をしている仲なんだけど、それはまた別の機会に話すことがあるかもしれない。


とにかく、今日は美術館に行く予定。

電車

今日向かう美術館は、市の中心部にある。そんなわけで、市の真ん中のあたりまで電車で向かうことになる。


そういえば、はじめて彼女と電車に乗ったのは彼女の実家に行くときだったっけ。

そのときは、雨が降っていた。今日は、晴れている。


僕と神足さんは、二人で座れる席を見つけて、隣同士で座る。

軽く脚と脚が触れ合う程度の感触。


僕たちも、だんだん恋人っぽくなってきたかな、なんて。


電車が走り始めると、彼女はトロンとした目つきになり、やがて目を閉じてしまった。

どうもここのところ、忙しかったらしい。何か文化祭の件で委員長に内々に頼まれていることがあるようだ。

『もうちょっとしたら話すわね』なんて言われてしまっているので、僕には何とももどかしい感じなんだけど。


眠り始めた彼女は、やがて僕にもたれかかる。


長い耳が肩につき、続いて長い髪が僕の肩にかかった。

柔らかい彼女の身体の体重が、ゆっくりと僕にかかる。


すう、すう、と寝息を立て始めた神足さん。


さらさらの彼女の髪が、心地良い。


・・・電車の中で、ちょっと話でもしようかと思ってたんだけどな。

まあ、神足さんも気持ちよさそうだし、いいか。


僕は眠りはじめた彼女の手を握った。

「ん・・・」

彼女は少しだけ反応したが、それは気持ちよさそうな声だった。

市内

電車が目的の駅に差し掛かったので、僕はゆっくりと神足さんを起こした。

「ん・・・?」

ゆさゆさ、と肩を揺らしてあげると、彼女はゆっくりと目を開く。

「もう、ついたの・・・?」

「まあね」

「そう・・・」


彼女は自分の手に何かを感じたらしい。

少し不思議そうな顔をして、自分の手を上に上げていた。

もちろん、僕が彼女の手を握っているので、僕の手も持ち上がる。


「・・・・・・行きましょう」

知らない間に手を握られていたことは、イヤではなかったらしい。

彼女は僕を促した。




とはいえ、人前で手を握り続けているのは恥ずかしかったらしく、電車を降りると彼女はすぐに手を離した。

まあ、神足さんが手を離さなくても、僕もきっと離したと思うけど。




目指す美術館は、駅から1キロほど離れていた。

神足さんと僕は、二人並んで美術館まで歩いた。


僕らはたいてい一緒に帰っているから、二人で歩くのは慣れている。

だけど通学路や家の近所以外の道は、そんなに歩かない。


人が多い街中を歩くのは、また違った気分だった。


街を歩く人は、ときどき彼女に注目する。

気にしない人は、気にしていない。

だけど、彼女は女性としては少し背が高いし、スタイルいいし、美人だし・・・変わった耳をしている。

注目されるのも、不思議ではなかった。


遠慮のない視線が、たびたび彼女に送られる。

神足さんは、どう思っているんだろう?


彼女の穏やかな横顔からは、何も読み取れない。



ふと、彼女がこちらをみる。

「・・・そんなに心配しなくても、大丈夫よ」

神足さんは、そう言った。

「大丈夫だから。あなたが、気にしなくてもいいわ」

彼女はそう言って、微笑んだ。


なんだか、僕の方が元気付けられているようだ。


「ありがとう」

「この場合、お礼を言うなら、わたしの方でしょう?」

「いいんだよ。僕が言いたいんだから」

「・・・へんなの」

そんな会話をしながら、僕たちは市街地を歩いていった。


やがて、シックな外装をした、建物は古い美術館が見えてきた。

「美術館って、たまに建物自体は全然美術的じゃないときがあるけど、これは素敵な感じね」

神足さんはそんな感想を言った。

「うん。たしか、この建物自体が、何かの文化財に指定されてるらしいんだ」

「そうなんだ。詳しいわね」

「まあ、生まれてからずっとこの市に住んでればね。何かの拍子に聞くこともあるんだ」

「ふうん」


そんな美術館の中に入っていき、チケットを2人分出す。

もちろんすんなりと通され、僕らは順路に沿って見学を始めた。

美術館の中

特に現在特別展をやっているわけでもないので、美術館はわりとすいていた。

ちらほらと、人が見える。だけどそれはまばらだ。


ちなみに、僕らのような、高校生はいないみたい。やっぱり、こういう場所でデートをするのは流行らないのかな?



でも、こういう雰囲気、僕は嫌いじゃない。

神足さんにとっても、きっとそうだと思う。



かけられている絵を順番に、神足さんは眺めていた。

精密なタッチでデッサンされ、色づけされた昆虫の絵なんてもの。

山の絵。

海の絵。


美術館では一杯絵が飾ってあるから、自然と自分の興味を持った絵の前で長い間立っていることになる。



そんな中で、神足さんが一枚の絵の前で立ち止まった。


川が流れ、その両岸に桜の樹が並び、その桜が満開になっている絵。

その景色は遠くでかすんでいる。これは、春霞だろうか?

川面がきらめき、光に照らされた桜。だけど、花見をしている人は誰もいない。

そのかわり、小学生たちの列が川の横を通り、桜を指差している。


思わず頬が緩んでしまうような、春のひととき。


神足さんはその様子をじっと見ていた。

僕もその絵をじっと見ていた。




誰かと美術館に来て、絵を見る。

ある絵の前では、どちらも通り過ぎる。

ある絵の前では、どちらかが立ち止まる。

ある絵の前では、両方が立ち止まる。


どちらかが絵を見たければ、もちろんもう片方も絵の前で立ち止まるんだけど、それは相手を気遣っているからだ。

お互いの感性が一致して、一つの絵を二人で見ていること。

それはとても嬉しいことだと思った。



神足さんは、僕のほうを向いた。

「なんだか、素敵な絵ね」

「うん」

「本当に、優しい感じがする」

神足さんは、絵の中の桜と小学生たちを見て、優しい笑顔をしている。

「そうだね」

僕も、その絵の光景を素敵だと思った。

そして・・・この光景を同じように素敵だと思ってくれる神足さん。彼女が笑顔をみせてくれることを嬉しいと思った。


僕らはもうしばらくその絵を見てから、その場を去った。

夏景色

何枚かの絵を見たあとで、神足さんはまた一枚の絵で立ち止まった。


僕はその絵を見て少し意外に思った。


その絵は、夏のビーチを描いたにぎやかな絵で、歓声までもが聞こえてきそうな絵だった。

たしかに夏のひとときを切り取ったようないい絵だけど、神足さんはそういう賑やかさはそんなに好きじゃないと思っていたから。


僕は、彼女に声をかけた。

「この絵、気になる?」

「ええ・・・」

「どのあたりが?」

「・・・わたし、最近プールも海も嫌いだったから。その、・・・耳、出さなくちゃいけないでしょ? まあ、水泳の授業で水泳帽かぶるときのことだけど。

だから、わたし、水泳が大嫌いだった。泳ぐのは嫌いじゃないんだけど」

「・・・そっか、そうなんだ」

「でも、今は大丈夫かも。この学校のみんなとは、うまくやっていけてると思うから。もちろん、一部の人は今でもわたしを悪く思ってるけど、でも、・・・誰にも嫌われていない人なんて、いないから」

彼女はそう言った。


「今年は、泳ぎに行きたいな」

「じゃあ、一緒に行こうか?」

自然と、言葉が出ていた。

「・・・うん。行きましょう」

神足さんは僕を見て、頷いた。

不思議な絵

美術館のコースの最後の方に、不思議な絵が飾ってあった。


白いローブを着て天使の輪を抱いた天使の少女と、幼い少年。

天使の少女は羽をなくしていて、その失った羽は大きな建物の屋根にぶら下がっている。


少年と少女は屋根伝いに羽を掴もうとしている。

少女は夢中で羽に手を伸ばし、今にも落ちそうになっている。

少年は少女の手首を掴み、彼女が落ちるのをかろうじて防いでいる。必死な顔をしているが、それは、少女を心配してのものだ。


そして、今にも少女の手が羽に届くというときになって、ふと、少女は少年の方を振り返り、少年は少女の方を見つめている――。



その絵には、『絆』という題がつけられていた。



僕と神足さんは、二人して絵の前に立ち止まっていた。

それほど大きな絵ではなかったのだけど、その絵はとても人をひきつけるような雰囲気を持っていた。


「どうして、この絵が『絆』なのかしら」

僕が感じたのと同じ疑問を、彼女は呟いた。

「男の子が女の子に手を伸ばして、手首を掴んでいるから、それが絆なのかもしれないけど」


僕は絵を見ながら考えた。

「この絵は、この男の子と、この天使の女の子の間の心の絆を描いているんじゃないかな」

「・・・そうなのかしら」

「この天使の女の子は、きっと突然この男の子の前に現われて、あの羽を取るのを助けて! って言ったと思うんだ。

でも、こんなに高い建物の屋根の端に引っかかった羽なんて、簡単には取れっこない。

それでも男の子は、危ないのを承知でこの女の子に力を貸してあげてるんだよ」


僕がそう言うと、神足さんはしばらく絵を見つめていた。


「ねえ。女の子が羽を掴んだら、そのときに女の子は空に帰っちゃうのかな」

神足さんはそう言った。

「きっと、・・・そうなんだろうね」

僕はそう答えた。


「だから、この天使の女の子は、男の子の方を向いて寂しそうな顔をしているのかな」

「そう、だと思う」

「男の子の方も、少し寂しそうね」

「・・・うん」




僕らは絵の前で、まだ立ち止まっていた。

横を、中年の男の人が歩いていく。僕らが見ている絵を一瞥しただけで、去っていった。




神足さんと僕は男の人をチラリと見たあとで、また絵に戻った。




神足さんは、絵を見ながらまた呟く。

「女の子がこの羽を掴まなければ、・・・女の子はずっと地上にいられるのかしら」


「そう、かもしれないね」


「こんなに必死になってくれる男の子がいるのに、女の子は空に帰りたいのかしら」

「・・・そこが、天使の故郷だから、帰りたいのかも。でも、男の子のことも考えていて、帰るのを少し躊躇ってるんだ」


「でも、男の子の方も・・・どうして彼女を助けてるの? 自分が手を貸したらすぐに彼女は帰ってしまうのに」

「きっと、女の子のことを考えているからじゃないかな」



「それが、絆なのね」



神足さんはそう言って、絵の中の少年と少女に目をやった。


少女の手は、あと数センチで光を放つ天使の羽に届くだろう。だけど、その手は途中で止まっている。

そのかわり、少年と少女は、しっかりと見つめあい、複雑な思いを交わしている。


互いの手と手を握り合ったまま。




「ねえ・・・」

神足さんは、そっと僕に手を出した。


僕もすぐに彼女の思いを酌んで、手を出した。


そっと、その手を握り合う。


あの絵の少年と少女のように、僕らは手をつないで歩き始めた。

お土産

僕と神足さんは手をつないだまま、お土産のコーナーに立ち寄っていた。

お土産もののポストカードなどを見たり、美術館らしからぬヘンな置物を見たり。


「どうして美術館なのに、こんなにお土産が置いてあるのかしら?」

作品集くらいでいいと思うのに、と神足さんは言った。

「まあ、お商売だからね」

そう言うしかない。


「あ、神足さん、あれ見て」

「え・・・あ!」

それは、先ほど見た天使の絵のポストカードだった。

小さな絵なのに、こうやってポストカードになっているということは、人気があるのだろうか?


隣には、桜の花が咲く川の絵のポストカードもあった。


そして、もう一枚。展示されていない絵のポストカードがある。

「これ・・・」

神足さんは、ビックリしていた。


僕も、ちょっと驚いた。


そのポストカードには、一面にエルフの少女のバストアップが描かれていて、そのエルフの少女が閉じた目から一筋の涙をこぼし、それが頬を流れて、一滴落ちたという瞬間が描かれていた。

ただ、その表情は、悲しみなのか喜びなのか。ちょっと見るだけではわからなかった。


耳の長さも、だいたい神足さんと同じくらい。

神足さんにピッタリかも。


「ほしい?」

「え・・・?」

「気になるでしょ?」

「・・・え、ええ・・・」


僕は天使の絵と桜の絵、そしてエルフの涙を描いた絵のポストカードを買った。


お土産屋のレジを打っていたおじいさんは、桜の絵をみても何も思わなかったらしいけど、天使と少年の絵をみると、サッと手をつないでいる僕らの方をみて、柔らかな笑みを浮かべた。

そして、エルフの女の子の絵を見ると、ギョッとしたように神足さんの方を見ていた。


おじいさんは、思わず尋ねてきた。

「ええと・・・お客様、あなたは?」

おじいさんの顔からは、『この女の子は、天使かエルフか、妖精か何かなのか?』という質問がありありと浮かんでいる。


神足さんは、クスリと笑った。

「人間、ですよ。天使とかではなくて」

「そ、そりゃあ、そうですな、アハハハ」

おじいさんは頭を掻いた。


「しかし、それでも何か嬉しい気分です。あまり何もない美術館ですが、そのうちこのエルフの絵も入れ替えで展示されますので、できればまたどうぞ」

「はい」

「喜んで」


神足さんと僕は一緒に返事をした。

クスリ、と笑みが漏れる。

「じゃあ、行こうか」

「ええ。失礼します」


「ええ。気をつけて」



僕らは美術館を後にした。

手と手

その後、僕らは軽く食事を済ませてから、電車に乗って僕らの街に帰ってきた。

手を、どちらからともなく握りあって。


「なんか、知り合いに見られたらバカップルだと思われそうだけど・・・」

神足さんはそんなことを言ってはいたが、手を離す気はないらしい。

少なくとも、今日のところは。


「実際、人前でも手をつないでたら、ちょっと見苦しいかもしれない」

僕はよく高校で見かける何人かの実際のカップルを思い浮かべながら言った。

「わたしたちが今日バカップルだったっていうの」

神足さんは口を尖らせる。

「まあ・・・そう見えてたんじゃないかってこと」


「友達に見られてたらどうするの?」

「・・・諦めるしかないんじゃない?」

「わ、わたしは嫌よ!」

彼女は握った手をブン、と振った。

でも、僕が手を離す気がないらしいとわかると、諦めて手を握り返してきた。


「まあ、今日一日くらいはいいかもね・・・」


僕らは、駅から神足さんの部屋までの間、ずっと手をつないで歩いていた。

ちなみに、この光景はクラスメイトの誰かに見られていたらしく、あとでちょっとした冷やかしの種にされてしまった。

神足さんはそのことが持ち出されるたびにムスッとしていたが、それはまあしょうがないことだと思う。

神足さんの部屋

昼が終わり、夕方も半分終わろうかという時間になって。

ようやく僕らは、神足さんの部屋に帰ってきた。


最近、この部屋にいることも多くなったので、僕までが『帰ってきた』という感覚を覚える。

それだけこの部屋に入り浸っているってことなのかもしれない。


まだ、神足さんのこと、親とかきょうだいにも話してないんだよね。そろそろ話さないといけないかな・・・?


僕は、紅茶を準備しながらそんなことを考えていた。


最近では、僕も紅茶を淹れるようになった。

神足さんが淹れたがらないときに、僕が淹れるようになったからだ。

初めは結構いろいろと彼女に教わっていたが、やがて何も言われなくなった。


「ねえ、このコルクボードに絵を貼っておくけど、どうかな」

お茶を淹れている間にポストカードの位置を決めた神足さんが、僕に声をかける。

「いい場所なんじゃないかな」

「じゃあ、ここね」


ピンを使って、2枚のポストカードがコルクボードに留められた。


あの桜が咲く河岸に小学生たちがいる絵。

エルフの少女の涙。


飾っておく絵にしてはちょっと小さいかもしれないが、今日のことを思い出すには充分だろう。


もう一枚の、天使の絵は自分の部屋に飾るのだと神足さんは言った。

あの絵が気に入ったようだ。




「この紅茶、おいしいわね」

「お褒めにあずかり、どうも」

「あなたに淹れ方を教えたのはわたしだけど。自分でも、勉強してるのかしら?」

「まあ、少しくらいはね」

「ふうん。エライわね」

神足さんはクスクスと笑った。


「いいでしょ別に。紅茶は美味しく淹れられた方がいいし、その方が葉だって喜ぶ」

「たしかに。そのとおりね」

神足さんはもっともらしく頷いているが、おかしくてしょうがないらしい。


目が笑ったままだった。

デートの終わりに

神足さんはその後、シャワーを浴びて、ラフな格好に着替えてきた。

どうやら、今日の格好は今日の格好として、やっぱり家の中ではたとえ僕と一緒だろうとラフな格好がいいらしい。


「あなたの目を意識しないわけじゃないけど・・・別にいいでしょう?」

ということのようだ。


それに。

神足さんがラフな格好になるのは、シャワーを浴びた後が多い。

シャワーを浴びてくるというのは・・・実は、エッチの前の心の準備みたいなものもあるらしい。


彼女の方からお誘いがあるときは、いつもシャワーを浴びて着替えをした後だった。


「ねえ・・・ベッドに、行かない?」


少し小声で、神足さんがそう誘ってくれる。

瞳が潤み、少し湿った髪からはシャンプーとリンスの香りが漂ってくる。


おまけに、こういうことが恥ずかしくてしょうがないらしい彼女は、いつも真っ赤な顔をしている。


そんな神足さんに、僕が逆らえるはずもなくて――。




彼女はベッドの上で、目を閉じてキスを待っている。

僕は彼女の唇をついばみ、それから耳にキスをする。


「あん」


耳にキスをしたとき、いつも神足さんは唇を半開きにして、声を漏らす。


神足さんは、エッチの途中ではいろんなことをしてもらいたがってる・・・と思う(そんなことを口に出してくれるほど、彼女は素直じゃないけど)。

だけど、彼女はいつも、最初と最後に耳への愛撫を求めていると思う。




神足さんが服を脱ぎ、下着も取って、僕も着ている物を脱ぐ。

そのときに、僕が電気を消す。


今日はまだ少し明るい。外からの光が漏れてくる。

でもそれは、彼女の白い裸体が浮かび上がるのには充分な光の量だ。艶やかで滑らかな黒髪と、白い肌。


暗闇の中で、コンドームをつけると、彼女の右耳をついばんでから、僕は彼女に押し入った。


「ああん」

衝撃で、神足さんは喘いだ。


バスルームでの情事以来、少しずつ彼女はセックス自体での悦びを覚えてくれているみたいだ。


僕が緩やかに動く。

「ねえ・・・」

神足さんが、僕の顔を手の中に挟みながら言う。

「何?」

「今日は、ありがとう。楽しかった」

「僕だって、楽しかったよ」


「あなたに会ってから、いろんなことがあったわ。これからも・・・そうだと思う」

「少し、不安だけど・・・でも、それが嬉しいの」


そう言って、神足さんはギュッと僕を抱きしめた。

暗闇の中でも、彼女が満面の笑みを浮かべているのがわかった。


例えようもない、溢れるような嬉しさを感じる。



僕は彼女を抱きしめ、律動を始める。



「あ、そんな、急に・・・」



彼女は戸惑ったような声をあげるが、やがてそれは悦びの声にかわる。

「アン、アン、アン・・・」

お互いに抱きしめあったまま、下半身はお互いにリズムを取って動き続ける。



今日のエッチは、静かに進んでいる。

だけど、気持ちが一緒に高ぶっていくのがわかる。


気持ちが同時に高ぶって、それが嬉しくて。


彼女を抱きしめる。

神足さんも、わかってる、というように抱き返してくれる。



しばらくの間、律動は続いた。



やがて、それも終わりが訪れる。

「ぼ、僕、もう・・・」

「ええ・・・わたしも・・・」

今日の僕らは、同時に達することができそうだ。


ぎゅっと手を握り合い、僕は彼女の中で最後の動きを続ける。


「ううっっ!!」「アアアッ!!!」

僕が低く呻いてコンドームの中に精液を吐き出したとき、彼女の膣も痙攣を始めた。

同時に、神足さんの喉から叫びが漏れる。





射精して、彼女がエクスタシーを迎えてから。


彼女が夢の中から戻ってくるまで待って、それからゆっくりと彼女の中からペニスを抜いて、コンドームを外す。


彼女の身体をタオルやティッシュで拭いてあげてから、そっと髪や耳を撫でてあげる。


「いい、気持ち・・・」


あられもない格好をしたまま、彼女は無邪気に呟く。



隣に寝ている僕に、寄り添ってくるように彼女は腕を伸ばす。

僕は神足さんを抱きしめながら、家に帰るまでのひとときを過ごした。

2006/11/11 佳情。
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