「うーん、こっちがいいかな・・・」
晴香は化粧品売り場でウロウロしていた。
「こっちもいいと思うし・・・」
何か、買うもので迷っているらしい。
「ねえ、ジュンはどう思う?」
「・・・ハルカ、あのさ、僕こんなところでウロウロするの恥ずかしいんだけど」
潤は生まれて初めて化粧品売り場に連れてこられて、身の置き所がない思いをしていた。
なんというか、もう・・・やめてほしい、という顔だ。
そんな潤を意に介さず、晴香は質問をしてくる。
「ジュンはどっちが好みかな?」
そう言って、ニンマリしながら口紅を指差す晴香。
「そ、そ、そういうのは僕わからないかも・・・」
「そう? わたしに似合ってると思う方を選べばいいんだけど?」
晴香がそんなことを言うので、潤は思わず晴香の唇をみつめてしまう。
女の子らしく、血色のいい、明るい色の唇。
いくらそれが幼馴染のものとはいえ、潤には刺激が強すぎる。
慌てて顔を横に向けた。
「で、どっちなの?」
晴香はあくまで潤に質問する。
(勘弁してよ〜)
だが、晴香は勘弁してくれそうにない。
「じゃ、じゃあ右・・・ピンクっぽい方」
「んー・・・こっちね。そうね、わたしにはこっちの方が合ってるかな。ありがとね、ジュン」
そう言って、晴香はレジへ向かう。
武部潤。幼馴染の松田晴香と、生まれて初めてのデート。
晴香に振り回されるために呼び出された、という感じであった・・・。
「あのさ、ハルカ・・・なんで僕をああいう場所に連れまわすわけ?」
「まあいいじゃない。女の子と付き合うに当たって、ああいう場所になれて免疫をつけておいたほうが無難よ。下着売り場に連れて行かないだけありがたいと思ってよね」
「そんなことされたら、帰るからね」
ゲンナリとした顔で潤は手を振った。
「フフ。じゃあそれはやめといてあげるわ」
(でも、きっとわたしが引っ張っていけば絶対についてくるわね、この顔は)
晴香は口とは裏腹に、なかなか凄いことを考えていたのだった。
今日は日曜日。
晴香は、再会を記念して(?)潤と一緒に買い物にきていた。
晴香に言わせれば、これも潤の彼女探しのための一環で、免疫をつけさせるため、経験を積ませるため、ということだろうか。
その実、自分が一番楽しんでいるのは否定できないが。
晴香と潤は、喫茶店に入った。
昼食である。
「それにしてもさ、ジュン」
晴香は、スパゲティを食べながら言った。
「アンタ、春川さんのどの辺が好きになったわけ?」
春川さんというのは、潤が告白メールを送ろうとした相手だ。そのメールは間違って晴香に届いてしまったが。
「あー・・・その、なんか美人だし。優しいし」
何となく、赤くなりながら潤は答える。
「・・・聞いたわたしがバカだったわね」
潤の反応に辟易しながら、晴香は頬っぺたをニ、三度かいた。
「でも、なんで彼氏がいるって気づかなかったの? 事前にそういうこと、調べなかったわけ?」
「うーん、やっぱり好きになったんだし、そういうのを気にしてコクるのもどうかなって思って」
「・・・そのセリフだけだと男らしいんだけど、やってることがセコいわよ。手に入れたメアドから、メールで告白なんてさ」
「う・・・それはまあ、その」
身を縮ませる潤。
「まあね。何となくわかるわよ。どうせ、春川さんに舞い上がってて、相手のことをよく知ろうともしてなかったんでしょ?
そうでなきゃ、あんなにあからさまに彼氏がいるのに、気づかないなんてありえないもんね」
「お、おっしゃるとおりで・・・」
晴香の言う通りなので、潤は頷くしかない。
「まあ、新しい人を好きになるかどうかは別としてさ。
アンタ、今でも春川さんのことが好きなんでしょ?」
「そりゃ、まあ」
相手に彼氏がいるくらいで気持ちが消えるわけがない。
「だったらさ。・・・とりあえずコクってみたら? 運がよければ、受け入れてくれるかもしれないし。まあ、相手がもう彼氏と別れようとしてるとか、そういうときならってことだけど。
どうせ、あきらめつかないんでしょ?」
「・・・うーん」
「何よ。ジュンのことだし、どうせそのうち、そうするつもりじゃなかったの?」
「それは、そうなんだけど・・・なんというか、振られるのがほぼ確実ってわかってるのにコクるのも」
「気持ちにけじめをつけるのは、大切だと思うわよ。わたしも彼女探してあげるなんていったけど・・・よく考えると、まずは、そっちが先よね。どうする?」
晴香はそう言った。
潤は、しばらく考えていたが、
「・・・うん。じゃあ、ダメでもともとだし、コクってみるかな」
といった。
「でも、ジュンも楽しいでしょ? わたしと一緒に歩くの」
帰り道、晴香は道を歩きながら、潤の方を見る。
その顔は、無邪気なものだ。ポニーテールが揺れるのを見ていても、どこにも表情を作ったような感じはない。
「ねえ?」
「あ・・・うん。楽しいよ」
そんな無邪気な晴香の顔にみとれて、潤は返事が遅れた。
「そう。やっぱり」
晴香はそう言って、笑った。
「今日は、楽しかったわ。
・・・告白、うまく行くといいね」
「うん・・・そうだね」
「何よ、その顔は。・・・コクるんだから、自信持って。コクれば、OK出る確率は2分の1なんだから」
OKか、ダメか。
もちろん、そうじゃないことくらいは、わかってる。
だけど、晴香も潤も、あえてそうは言わなかった。
「そうだね。がんばってみるよ」
そして、その3日後。
潤は自分で春川さんを呼び出して、彼女の前に立っていた。
破裂しそうな心臓を抱えて、彼は彼女に告げる。
「僕、春川さんが好きなんだ。つきあってほしい」
春川さんは、潤と視線を合わせ、それからそらせて。
「ごめんね。わたし、付き合ってる人がいるの。その人が好きだから、あなたとはつきあえない」
晴香に言われて知っていたとはいえ、実際に聞くと苦しい答え。
春川さんも、申し訳なさそうな顔をしている。
「そっか。・・・聞いてくれて、アリガト。じゃあ」
潤はそう言った。
「ええ。じゃあ・・・さよなら」
それが、潤の初めての告白の結末だった。
潤が立ち去った後。
春川さんは、思った。
珍しく、ストレートに告白されて、ドキッとした。
今の彼氏は何となく付き合い始めて・・・もちろん、彼に不満はない。
だけど、好きな人からあんな風に告白されたら、きっとステキだろう、と。
少しだけ、潤の株が、彼女の中で上がった。
だけど、数分もしないうちに春川さんの彼氏がやってくると、春川さんは潤のことを頭から追い出して、心からの微笑を自分の彼氏に見せたのだった。
続編、ファーストキスはこちら。
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