わたしの初恋を読んでからの方が、楽しめます。
1年前の、今頃。
まだ、平治さんと恋人同士ではなかったころのこと。
わたしは受験生で。
平治さんは、わたしの家庭教師でした。
わたしは出会ってすぐに、平治さんに恋をしました。
だけど、平治さんには恋人がいました。
思いを諦めようとしたこともあります。だけど、平治さんへの思いは断ち切れませんでした。
だから、一度だけのつもりで、クリスマス前の日曜日にデートを申し込んで。そして、平治さんは受け入れてくれました。
あのデートのことは、恋人になった今でも忘れられない思い出です。
映画を見たことも、食事をしたことも、ライトアップされた街を歩いたことも。最後に、わたしが平治さんの頬にキスをしたことも。
そんな他愛もないことがいつでもできる関係になった今でも、あのときのことは大切な思い出です。
あれからまだ、たったの1年。
わたしは、今度こそクリスマスイブの日に平治さんとデートをします。
「嬉しそうだね・・・桜?」
いつにもまして浮かれているわたしを、平治さんは不思議そうにみています。
「うん。今日は、特別だから」
「特別って・・・クリスマスだってこと?」
そう。たしかに恋人同士にとって、日本ではクリスマスは特別な日。
だけど、わたしにとっては、それ以上の意味。
平治さんは、気づいていないんでしょうか。
「半分合ってるけど、ちょっと違う」
「どう、違うのかな?」
「そう・・・わからない?」
ちょっと残念。
人前で、ちょっと恥ずかしいけれど。
わたしは、背伸びをして平治さんの頬にキスをしました。
1年前の、あの日のように。
通行人の何人かが、わたしたちを見て行きます。
ちょっと恥ずかしい。
「さくら・・・? あ・・・そういうことか」
平治さんは、やっと思い出したようでした。
「あれからもう1年になるんだね」
1年前と違い、わたしと平治さんは手をつないで街を歩きます。
「1年前は、こんなことできなかったな」
わたしは、つないだ手を見つめながら言いました。
「そうだね。・・・僕も、1年前はこんなことできるとは思ってなかった」
「ねえ、1年前、わたしと手をつないで街を歩いてみたいと思った?」
「そうだね。正直に言えば」
「じゃあ、どうしてそうしなかったの?」
「どうしてって・・・僕にとっては、『家庭教師の生徒の桜ちゃん』からデートの申込を受けただけでギリギリのラインだよ。それ以上、深入りしちゃダメだと思ったからさ」
「わたしは別に・・・よかったんですけど」
「まあ、桜はね。最後にほっぺにキスをされたのは、強烈だった。桜の気持ちが、痛いほど伝わってきた」
頬にキス。あのとき、やっぱりやりすぎだったのかな?
「だからね。もし、桜が最後の授業の日に僕に告白してくれなかったとしても、僕から桜に告白してたかもしれない」
「え?」
「亜希と別れてから、僕のことを訳がわからなくても心配してくれる桜にどんどん惹かれていった。いじらしくて、かわいくて。
桜が僕を好きだってことは・・・ずっと、わかってたから。僕に恋人がいて、ずっと続いてるって桜が信じていて、それで苦しい思いをしてることも知ってたから。最後まで黙っておくなんて、できそうもなかった。
それに僕自身、桜への気持ちがどんどん強くなって、黙っていられそうにもなかったし・・・。
最後の授業のときは、受験が終わってなかったから、僕から気持ちを打ち明けたものかどうか、迷ったんだけどね。
でも、受験が成功して、僕のところに話をしてくれたときには・・・絶対に、桜に好きだというつもりだったんだ」
平治さんは、そう言って、赤い顔になりました。
あの頃から、わたしと平治さんは、想い合っていたんだ。
わたしは、握られた手をギュッと握り返しました。
わたしと平治さんは、1年前とは違う、少し高いレストランに入りました。
まだお酒の飲めないわたしに合わせて、平治さんもお酒は飲みません。
でも、出てくる料理はこういう日らしく、コース料理になっています。
そういえば、1年前はあんまり料理の味もわからないような状態でした。映画を見に行ったといっても、それも内容を覚えていません。隣の平治さんばかり気にしていたんじゃ、無理もありませんけど。
今は、ちゃんと料理の味も、周りの雰囲気も楽しめます。
平治さんに夢中じゃなくなったっていうことじゃないけど・・・恋人同士の関係に慣れて、落ち着いてきたっていうことでしょうか。
「今日はクリスマスなんで、桜にプレゼント」
そう言って、平治さんは小さな箱を出します。
「左手を出して」
わたしが素直に左手を出すと、平治さんはその手を優しく取って、薬指に銀色の指輪を嵌めてくれました。
わたしは指輪のおさまった左手を眺めてみます。サイズはピッタリで、よく銀色に光っています。
平治さんは、照れくさそうに笑います。
「ちょっと卑怯かなとは思ったけどね。亜希に、指輪のサイズを調べてもらったんだ。何日か前に。・・・覚えてると思うけど」
「うん・・・」
そういえば、数日前に亜希さんが指輪のサイズを測ってくれました。
ついでに、『指輪嵌めるなら、どの指がいい?』って聞かれたので、なんとなく左の薬指と答えたんですけど。まさか、こういうことになるなんて。
でも、嬉しいです。
「じゃあ、僕にもつけて。やっぱり、こういうのは桜につけてもらったほうがいいと思うし」
出された箱に入っていた指輪を、平治さんの左手の薬指に嵌めます。
わたしよりほんの少し太いみたいですけど、綺麗な指。
「うん。ありがと」
平治さんは、さっきわたしがしていたように、自分の左手をじっと眺めています。
「いざ指輪を嵌めてみると、こういう形のあるつながりっていうのも結構いいものだね」
平治さんは、嬉しそうにいいました。
その深夜。
わたしは、隣に平治さんが眠るベッドで、目を覚ましました。
手を空にかざすと、昨日まではなかった指輪の煌きが目に入ります。
隣の平治さんは、裸。わたしも、裸。
1年前までは想像もできなかったようなわたしと平治さんの関係。
つい2、3時間ほど前まで、わたしと平治さんはベッドの上で身体をつなげていました。
「桜! 桜!」
わたしの名前を呼びながら、わたしを抱きしめるのが、平治さんが好きなエッチみたい。
わたしもそれは大好き。
わたしを感じてくれるのも・・・わたしで、平治さんが気持ちよくなってくれるのも。
もちろん、わたし自身が高まっていくのも。
「平治さんっ、アア、ア・・・ア・・アアアアッッ!!」
「桜っっ、あ、ううっ、うっ・・・・・!!」
平治さんが呻いて、わたしの中で達してしまう瞬間。
たとえコンドーム越しでも、平治さんがわたしの中で最後まで感じてくれたこと。
セックスをするようになって、それに慣れてきて。ピクピクと平治さん自身がわたしの中で震えるその瞬間が、たまらなくいとおしく思えるようになってきました。
エッチのあとに流れる緩やかな時間も。
そのまま、眠ってしまうような時間も。
みんな、恋人同士になれたからこそ、味わえる時間なんですね。
指輪を見つめながら、思いました。
平治さんの恋人になれて、本当によかった、と。
1年前のあのとき、諦めなくてよかった。
そして、願わくば・・・これからのクリスマス、いつまでも平治さんと過ごしていきたい。
そんなことを頭の中で繰り返しながら。
わたしはもう一度、平治さんの隣で眠りにつくのでした。
第一作、わたしの初恋はこちら。
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