甘い香りの武器


萌雀掲載作品。

 男勝りで、言葉遣いまで男言葉の幼馴染さん。


 僕のタイプじゃないけど、結局なんだかんだと振り回されている。

 断じて好きなわけじゃないんだけど。


 そんな彼女に振り回されて、今日もまた。


「久しぶりに、わたしの部屋に来ないか?」

「な、なんでお前の部屋なんかに」

「嫌なのか?」

「よ、用事がないのにいけるか」


 いくらコイツの部屋だからって、女の子の部屋においそれと入れるか。男だぞ、僕も。


「そうか。用事がないと来てくれないのか」

「まあ、そう・・・だな」

「じゃあ、大事な用がある。来てくれないか?」

「・・・そんな、思いついたような『大事な用』があるか」

「来てくれないのか?」

「・・・」

「来てくれないのか?」

「・・・・・・」

「・・・わたしは、お前に来てほしいんだが。それでも、来てくれないのか?」

「・・・・・・・・・わかったよ」


 半ば強引に、こうして僕は幼馴染の部屋に行くことになった。




 幼馴染の部屋は、数年前に入ったときよりも綺麗で片付いていた。

 ひとつひとつの調度品が、コイツが選んだとは思えないようなセンスのあるものになっている。


 部屋が狭いという理由で、コイツのベッドの上に座らされた。

 そして、幼馴染も同じくベッドの上。


 ・・・まあ、コイツとなら、間違いなんて起きないだろう。


 しかし、この部屋は、本当に女の子の部屋だな。

「・・・意外だな」

「何が?」

「お前の部屋か? ここ」

「当たり前だ」

「なんか・・・甘い香りがしてて」

「たまにアロマを焚く。そのせいだろう」

「お前が『あろま』?」


 ・・・まあ、黙っていれば、ショートカットの美少女だし。わからないでもないが、でも、コイツがアロマ?


「・・・いま、すっごく馬鹿にしたろ」

「・・・あ、い、いいや」

「わたしも女だからな。そういうのに、興味あるんだ」

「そ、そうか・・・いや、そうだろうな」

 コイツは男っぽい態度をとるが、間違いなく女だ。

 たまに見つめられて、ドキドキすることもあるし。



「わたしを、女だと思うか?」


「あ、あの、それはどういう」


「いつもいつも、お前はわたしを適当にあしらう。心を苦しめる」

「な、なんのことだ?」

「お前が振られて、そのたびにわたしは『わたしと付き合わないか』と言ったのに、お前はいつもまともに答えてくれない」

「そ、それは」

 なんだ。何なんだこの展開?


「・・・わたしの中のお前は、すっかり男になってるのに」

 そう言って、幼馴染は僕の胸板に指で触れてくる。

 繊細な指の感触で、どうにかなってしまいそうだ。


「お前にとっては、わたしはただの幼馴染でしかないらしい」

 そういって、幼馴染は俯いた。



「わたしは、お前にとって、女でありたいんだ。・・・それも、特別な女性でありたいんだ。それでは、いけないか?」



 そして、幼馴染は、ふわりと僕にもたれかかってくる。

 彼女の甘い香りが、僕を包み込んだ。


 それは狂おしいほど、甘い香りで。


「んっ・・・」



 僕は、幼馴染の細い身体を抱きしめた。

 そして、彼女の唇に自分の唇を押し付ける。

 僕は幼馴染に、生まれて初めてのキスを捧げていた。



 やがて、息苦しくなり、唇を離す。



「乱暴だな・・・」



 キスをされた幼馴染は、怒るでもなく、僕の顔を見て苦笑いを浮かべた。

2007/7/1 佳情。初出:萌雀
2007/7/29 掲載
2007/8/4 「着てほしい」>「来てほしい」

続編、放課後の会話はこちら。

感想・誤字等はこちらまで。


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