可憐な眼鏡


萌雀掲載作品。

試験があと1週間に迫っていた。


僕は学校の図書室で勉強していた。

すると、たまたま近くで勉強していた子の教科書が落ちた。

僕がその教科書を拾って机の上においてあげると、

「すみません・・・」

と、女の子の声がした。

僕はその声に聞き覚えがあった。

誰だったっけ? とっさに思い出すことができない。


僕は顔を上げて、相手の顔を確かめる。

その女の子は、レンズが細身のかわいい眼鏡をかけていた。

見覚えがあるような、ないような。会ったことはあると思う。だけど、名前が出てこない。

この子、誰だったっけ?

こんなかわいい子、一度会ったら、忘れないはずなのに。


僕は彼女の顔をみたまま、ぼんやりと考えてしまっていた。

女の子の顔が、だんだんといぶかしげな顔になっていく。

「すみません。わたしの顔に、なにかついてます?」

「い、いえ。眼鏡が・・・」

「眼鏡? これ、ですか?」

女の子はそういうと、眼鏡をそっと外してみせた。


僕は、眼鏡を外した彼女の顔を見て、一瞬で彼女が誰だったかを思い出した。

「いつも電車で一緒の・・・」

「あ、そういえば・・・」

僕らは同時に声を上げていた。

彼女は、いつも同じ駅で同じ場所から電車に乗る女の子だったのだ。

名前が出てこないのは当たり前だった。一度も聞いたことがないのだから。


「かわいい眼鏡だね。いつもはしてないの?」

「あ、わたし、いつもはコンタクトだから。今日はちょっと、ね」

「・・・眼鏡の方が、似合うよ」

「そ、そうですか? ・・・じゃあ、そうしてみようかな・・・」

彼女は照れた笑みを浮かべて、勉強に戻った。


その後、僕らは待ち合わせたように同じ時間に図書館を出て、同じ電車で下校した。

2007/7/15 佳情。(萌雀で初出) 2007/9/22 掲載

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