放課後の会話【200万ヒット記念作】


翌日

幼馴染の部屋で、幼馴染にキスをした翌日。



僕と幼馴染は、また放課後一緒に教室に残っていた。

ただし今日は、なんとなく二人で話したいと思っていたからだ。


「なあ」

「なんだよ」

「わたしには、女として魅力があるか」

「・・・ハア?」


僕は幼馴染の顔を見た。整った、美人といわれる顔立ちだ。

次に、幼馴染の首から下へ視線を向ける。適度に盛り上がった胸元に臀部。思春期独特の細長く引き締まった白い脚。

・・・いかん、スケベオヤジみたいだ。


「もしお前が自分に女としての魅力がないなんて考えてるなら」

「考えてるなら?」

「そこらの女子は、ほとんど全員怒り狂うと思うぞ」

「それは、わたしが女として魅力的だという意味か」

「まあ、な」

「そうか」



幼馴染は、コクリと頷いた。

キス、その後

「では、ひとつ聞きたいのだが」

「・・・何」

「昨日、君はわたしにキスをしたな」


いきなり、核心ですか。


「まあ、そうだな」

「それも、ずいぶん衝動的なキスだったと思う」

「・・・それも、否定はできないな」


思えば、僕もずいぶんと無茶をしたものだと思う。

いくらコイツが僕に、


『わたしは、お前にとって、女でありたいんだ。・・・それも、特別な女性でありたいんだ。それでは、いけないか?』


などと言ってしなだれかかってきたとしても、そのときにコイツの身体から、甘いような、誘うような香りがして、理性が一瞬飛んだにしても。



いきなり彼女にキスをしたのは、僕だった。




「しかもあのあと、君はわたしをベッドの上に押し倒したな」

「う・・・まあ、そうだな」


そう。あのキスの後、僕はそのままコイツをベッドの上に押し倒した。

お互いに服を着たままとはいえ、男の僕が女であるコイツをベッドに押し倒して、組み敷いたのは事実だ。


「わたしが聞きたいのは、その後のことだ。君はわたしを押し倒した後、突然あせったような顔になり、わたしから離れて、いきなり『ゴメン』といって帰ってしまったが」

「あ、その、それは、お前を押し倒したりして、悪かったってことで。謝って許してもらえることじゃないんだろうけど」


早口でしゃべる僕を、幼馴染は押しとどめた。


「君の謝罪を受けるかどうかは、これからの質問の答え次第だ。

さて。

君は、わたしが女として魅力的だと言った。だとすると、君が昨日わたしにキスをしたのも、その魅力のせいなのか」


また、ややこしいことを訊いてくる。


「そうだ・・・な。まあ、お前の魅力にやられたせいだな」


「では、わたしを押し倒したのも、やはりわたしの魅力にやられたせいか」

「そうだな」


幼馴染は、ここでいったん言葉を切った。


「ここからが肝心なのだが・・・では、どうして君は、最後まで行かなかったんだ?」

「・・・は?」

「君はわたしが女として魅力的だといった。そして、わたしの魅力にやられて、衝動的にキスをして、ベッドに押し倒したといった。

君がわたしの魅力に狂ったというなら、そこからわたしの服を脱がせ、裸にして、わたしの処女を奪っているのが本筋だと思うのだが」


・・・何を言ってるんだコイツは??

理由

「あのなあ、お前、あのまま最後まで行ける訳ないだろうが」

そう言うと、コイツはポカンとした顔をした。

「なぜだ? 女の魅力にやられた男は、その女とひとつになりたいと思うものだろう?」


わお、なんつーロコツな表現を。

「そりゃ、そういう欲求くらいは持つと思うが」

「では、君も昨日、わたしを組み敷いて、処女を奪いたいと思ったんだな。自分自身でわたしを貫いて、わたしの中で果てたいと思ったわけだ」


「・・・・・・」

その瞬間、僕の頭は停止状態に陥った。


「違うのか?」

コイツにそう言われて、ようやく俺の頭は活動を再開した。

「いや、まあ概ね違わないが、どこからそういう言い回しを思いつくのか、疑問なだけだ」

「露骨に身体の部位の名前を言うと生々しいので、多少文語的な表現にしてみたのだが。婉曲的になっていなかったようだな」

「ああ。かえって、やらしーくらいだ」

「ふむ、そういうつもりは、なかったのだがな」

「・・・・・・」

常識を持て、常識を。

そんな僕の心の叫びは、幼馴染に軽くいなされる。

「まあ、その点は置いておいてくれ。それより、どうして『最後まで行ける訳ない』のか、それを訊きたいのだが」

幼馴染は、あくまでその話にこだわるようだ。


「どうして、と言われても、当たり前だろうが」

「それでは、説明になっていないぞ。わたしの魅力が案外弱いんでやる気が失せてしまったとか、君が性的に不能だとか、いろいろ考えられる理由はあるはずだが」

「人を不能呼ばわりするな」

「それは考えられる理由のひとつだ。君が理由を答えないから、仮説を提示しただけだ。わたしが責められる謂われはないはずだぞ」


まったく、しつこいヤツだ。

分別

「あのなあ・・・一応言っておくが、僕だって、多少の分別はある」

「ふむ」

幼馴染は、コクリと頷いた。

「で、分別のある人間は、好きでもない人間といろいろ、えっちなことをやっていいとは思わないもんなの」

「ふむ・・・いや、ちょっと待て」

幼馴染は、ここで手を挙げた。

「なんだ」

「要するに、君はわたしのことを女性として好きではないから、えっちなことをやらないことにした、と、そういう理解でいいのだな」

「まあ・・・うん、そうだな」

「ふむ、だとすると、変だな」

「何が」

「いや、キスをしたり、異性をベッドに押し倒したり、そのときのどさくさにまぎれて胸を強く触る行為は、君のいう『えっちなこと』だと思うのだが・・・君がわたしのことを女性として好きではないんだというなら、なぜそんなことをしたんだ?」


あくまで幼馴染は生真面目に訊いてきた。

冗談半分だったら、ブチ切れてるところだ。

だが、コイツは大真面目なので、答えてやらないと悪いと思うし。

しょうがない。


「・・・まあ、それは」

「それは?」

「要するに、僕も修行が足りないので、分別もつかない部分もあるわけだ。で、お前の色香に迷って、ついフラフラと、キスをしたりベッドに押し倒したり・・・したわけだ」

「ついでに、胸も触ったな」

「触ってないっ」

くそう、・・・腹立つなあ、なんか。


「ひとつ、訊きたいのだが」

むっ、まだ質問があるのかっ。

「なんだよっ」

僕の態度を見て、幼馴染は不思議そうな顔をした。

「? イライラしているようだな?」

「そりゃあ、いろいろとデリケートなことを訊かれたんでな、ちょっとイライラもする」

僕が多少皮肉交じりに答えると、幼馴染は軽く笑って頭を下げた。

「そうか、それはわたしのせいだな。でも、もうちょっとだけ付き合ってくれないか」

「まあ、乗りかかった船だし、お前のこの性格は今に始まったことじゃないしな」

「ふむ」

幼馴染は、全然悪びれる様子もなく、頷いた。


「今までの話をまとめると、君は、わたしの色香に迷ったので、わたしにキスをして、押し倒した。だが、そこで分別を取り戻し、行為を中断した。それでいいのだな」

「まあ、そういうことになるな」

なんか、昨日の僕が『ようやく真人間に戻った変質者』みたいだが。

あまりそれに反論できないのも悔しいが。

「君がわたしにそういうことをした理由には・・・わたしを女性として好きだというのは、まったく含まれていないのか?」

「ん・・・え?」

「言い方が悪いか。つまり、わたしのことを好きだから、あんなことをしたんじゃないのか、と訊きたいのだが」

「あー・・・んー・・・どうだろう」


そういえば、そうなのかもしれない。でも、自分でもよく分からない・・・。


感情

「わたしとしては、君が性欲の赴くままにわたしの身体を蹂躙しようと、別に構わないと思う。そういう感情も、ないわけではない」

「おいおい」

コイツ大丈夫か、という感じもする。まあ、僕はコイツを蹂躙しようとは思わないので、別に問題にはならないのだろうが。

「だが、やはり、君がわたしを恋人としてひとつになろうとしてくれている方が好ましいと思うのでな」

「・・・そうだろうな、まあ」

それが普通だと思うよ。


「で、どうなんだ、さっきの質問については」


僕の、コイツへの気持ちか。


「まあ・・・正直、よくわからん。自分でも」

「そうか」

幼馴染は、あからさまにがっかりした顔になった。

「それに、つい最近まで、別の娘が好きだったわけだし。いきなりお前が好きとかいっても、嘘っぽいだろ?」

「それは、そのとおりだが。いくらわたしが君を好きだといっても、いきなり好きといわれてそれを信じるほど目が曇っているわけではないしな」

幼馴染は幾分がっかりした顔を修正して、頷いて見せた。

しかし・・・冷静にそう頷かれると、なんだかなあ。



幼馴染は、それでも少しはがっかりしているようだった。

だからというわけでもないが、・・・僕も少しだけ、自分の心の中の気持ちを明かしてやることにする。


「でも、正直」

「ん?」

「少しくらいは・・・オマエのこと、いいなって思うときがある。それは認める」

僕がそう言うと、幼馴染はかなりの食いつきをみせた。

「そ、そうなのかっ?」

「こんなことで嘘をついてもしょうがないだろ・・・はあ」

幼馴染は一転して笑顔になる。ついでに、ロクでもないことを口走る。

「なんだ、そうだったのか。だったら、あのまま最後まで行ってくれても・・・」

「い、いや、別に100%好きだって言ってる訳じゃないし、多少お前に気持ちがぐらつきかけてるってだけだし」

「ん、まあ、たとえそのくらいの気持ちでも構わないぞ。君がわたしを想う気持ちがそのくらいでもあったのなら、別に、抱かれても」

「あのなあ・・・やめろよ、そういう発想は」

どうしてコイツは話が通じなくなるかな。頭はメチャいいはずなんだが。



幼馴染の態度に呆れたので、僕は言ってやった。

「たとえ、お前のことが好きだったとしても、あんな勢いだけでは最後まで行かないってば」

「・・・? どうしてだ」

幼馴染は、無邪気に首をかしげた。

僕は、答えてやる。

「本当に好きなヤツなら、『そういうこと』は大事だろう? 初めて『そういうこと』をするなら・・・もっとちゃんと気持ちを確認して、ちゃんとしたシチュエーションでやりたいと思うさ」

「そ、そうだな、そういわれると、そうだな」

幼馴染は、ウンウンと頷いている。

・・・なぜか、見ていてこちらが非常に疲れる。


「じゃ、じゃあ、ひょっとして、君がわたしを最後まで抱かなかったのは、わたしを大事にしてくれたから・・・なのか?」

幼馴染は、上目遣いでこちらを伺いながら、尋ねてきた。


う・・・かなり可愛いかもしれない。


「ほ、ほんのちょっとは、・・・そういう意味もある・・・な」

僕は自分の頬が赤く染まるのを自覚しながら答えた。


「そ、そうか・・・そうなのか・・・い、いかん、そんなことを聞くと、ますます君に惚れてしまいそうだ」

幼馴染は、どこかで妙なスイッチが入ったらしく、そんなことをブツブツ口に出している。




ああ、そのうち、コイツと付き合うことになってしまうかもしれない。


そんな予感がした。

2007/11/25 佳情。
2007/12/9 指摘を受け、「言われ」>「謂われ」

第一作、エルボーはげますはこちら。

感想・誤字等はこちらまで。


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