ぱこぱこぱこぱこ
ここは女だらけの島、女護島。
ぱこぱこぱこぱこ
女だらけといえば、男性にとって聞こえはいい。
ぱこぱこぱこぱこ
だが、その実、この島の住人は全員が鬼。
ぱこぱこぱこぱこ
要するに、鬼が島―。
ぱこぱこぱこぱこ
「朝からうるさいですよっ、教授!」
「ヤカマシイ。朝から励んでおるのじゃ」
「ああ〜ん、キョウジュ様ぁ。もっとなさってくださらなきゃ、イヤン」
・・・何が哀しくて、こんな島に、わたしがいなければならないのか。
人生の不条理だ。
わたしは、某三流大学で大学教授の助手をしていた。24歳独身の女。彼氏いない歴も24年。ちなみに、処女はこの島の鬼に奪われた・・・無念。
まったく、わたしの上司である教授というのは、ロクでもないジジイ・・・いやいや、おじいさんだった。
学会での地位は低い。生徒からは尊敬されない。論文は誰からも評価されない。
文学部の教授だというのだが、一体何の研究をしているのやら。
当然というべきか何というべきか。教授は独身だった。なお、この教授だが、女性経験はつい最近まで『なかった』。
『なかった』とは、どういうことか。
もちろん、この奇怪な女護島で、108人くらいいるらしい(何ともいい加減な!)鬼どもと毎日イタしているからだ。・・・現に今、やっているように。
順応性が高いのか、パコパコパコパコはめまくっている。
得体の知れない生き物とヤるなんて、恐ろしいと思うのだが・・・。まあ、ここの鬼さんたちはとっても美人だけど。ラムちゃんのコスプレをしてたりするのが、ちょっとウンザリだったり。
とにかく、教授の話をしよう。
ある日、教授は世間を捨てた。小さな小さな小船で、わたし一人をお供にし、女だらけの女護島を目指すとホザいたのだ。そこに行けば、モテにモテると信じて。
そして教授とわたしは、遭難しかかったときに女護島に上陸できた。
この状況において、教授はモテにモテているといえるだろう。
毎日毎日、相手を変えて酒池肉林である。
「ほれほれ、欲しいか、いうてみい」
「ああん、ああん、キョウジュ様。早く、精を、注いでくださいませ」
「言われるまでもないぞ、・・・ううっ!」
「ああ・・・来ますわ、人間の熱い精が・・・」
ちなみに、女護島の鬼は人間の男の精・・・性交の際に身体から出るオーラや精液から、生命力を吸い取って生きているらしい。
長年童貞を貫いてきた男の精は特に美味であるらしく、教授は鬼たちに大人気だった。
ちなみにわたしも鬼たちに関係を迫られたのだが、1、2回身体を触られただけだ。その後は大して、興味を持たれていない。
「アンタの精、すっげえマズイ精だわ。女だからしょうがないけど。
やっぱ男の方がいい」
鬼たちは、軽蔑しきった目でわたしにそう言った。
・・・鬼なんかに処女を奪われて。
しかも、マズイ精とか言われて。
なにやらかなり傷ついた。
それにしたって、女護島についてから49日。
毎日毎日、セックスばかりして、教授は大丈夫なんだろうか? 鬼たちの話だと、鬼と身体を重ねるのは人間の女を相手にするより遥かに生命力を奪われるということだが・・・。
「むふう、もう、もう、出るぞおー!」
「アア、アア、アア、アア、キョウジュさまっ!!」
・・・まあ、この分だと当面は大丈夫か。
「ぐ、ぐ・・・うう・・・っっ!!」
教授が、裸の女(鬼)の上で、小さく呻く。
今頃、鬼の胎内に白い物を注いでいるのだろう・・・。
う、羨ましくなんかないデスヨ? 女護島についてきたのだって、教授が心配なだけで・・・、好きとかそういうのでは、ないんですからねっ!?
やがて教授は、がくり、と鬼の美女の上に崩れ落ちた。
「とってもよろしかったですわぁ、・・・最高ですわね、キョウジュさま?」
「・・・・・・」
「あら、キョウジュさま?」
「・・・・・・」
「・・・あらあら、お亡くなりになっていますわ」
・・・は?
「ええええっ!」
わたしは思わず大声をあげた。
さっきまで教授とニャンニャンしていた美女は、澄ました顔でこちらを向いた。
「大声を出さないでくださいよ」
「で、でも、どういうことですかっ!」
「ですから、キョウジュさまがお亡くなりになったのですよ」
「・・・で、でもさっきまでピンピン」
「まあ、わたくしども、鬼ですからね。身体を重ねれば、イヤでも人間から精を吸い取ります。ちょっと精気を吸いすぎたのかもしれませんわ」
「そ、そんなあ」
いくらあんなロクでなしとはいえ、わたしの上司・・・。
せめて一度くらい、キスをしたかった・・・って、そうじゃなくって!
「ど、どーしてくれるんですかっ」
「どうしてって言われましても。まあ、お亡くなりになったものは、しょうがありませんわね」
美女はティッシュで股間を拭きつつ、首を振った。
「キョウジュさまは、常々死ぬなら腹上死だとおっしゃってましたし。ま、いいんじゃないんですか」
「ふ、腹上死って・・・」
「ちなみに、彼の場合、きっと死んだら酷いところに行くと思いますわ。あんなに女に執着しているんですもの。きっと淫欲深く無知であるってことで、畜生道あたりに落とされるんじゃないかと思いますわね」
「・・・・・・」
「あるいは、人の身なのに、好き好んで鬼なんかと交わったのですから、地獄行きかもしれないですわ」
「・・・そんなあ、教授っ・・・」
「ま、わたくしどもには関係ありませんわね。・・・これから生き返ってくれれば、もうちょい楽しめるんだけど」
「生き返るっ!?」
「誰かがアッチにいって、呼んでくれば助かりますわ」
「アッチって?」
「あの世」
鬼は事も無げに言った。
「・・・ひょっとして、行きたいんですの?」
「・・・い、いや・・・」
「決断は、早いほうがいいですわよ。死んですぐの方が、いくらか戻ってきやすいですし」
「・・・・・・」
「で、でもどうやって、あの世なんか」
「わたしが、送ってあげますわ」
「え?」
「要するに」
「要するに?」
「かりに死んでみるってことですわね」
ガツンッ。
わたしは強烈に頭を殴られた。
その瞬間、わたしの魂魄はあの世へとぶっ飛んでいた。
「ま、下手をすると二人ともこの世には戻ってこれないんですけれど・・・それはそれ、ですわ」
「いたあいいいいいいぃぃぃぃっ!!」
気づけばそこは、あの世だった。
いや、あの世って、こういう場所でしょうかね? よくわかんないや。
花畑が一面に広がってて、何か河のようなものがその向こうにある。向こう岸には大きな大きな建物が建っている。そこから先が見えないほど、巨大な建物だ。敷地もかなり広いみたい。
ほー・・・と思っていると、後ろから肩を叩かれた。
「もうし、そこのお嬢さん」
「うわっ! 何ですか」
慌てて振返ると、そこにはスーツ姿の男性が。なんとも、場違いな。
「困りますね。死んだというのに、いつまでもぼうっとしておられては。さっさと整理券、取ってください」
「え、整理券・・・」
「ですから。三途の川を渡る整理券ですよ。死んでから49日で原則渡ってもらわないと困るでしょう? そのために、整理券、発行してるんですよ」
「あ、あの、・・・あなたは?」
「これは申し遅れました。
わたし、三途の川渡河委員会の説明部、個別案内課、第65536個別案内係のヒラ職員、矢部と申します・・・以後、お見知りおきを」
「はあ」
スーツ姿の案内役か。最近のあの世は違うな。
いやいや、女護島にだって成田への定期便があるとか鬼さんが言ってたから、このくらいは当然かもしれないが。
「ところで、あの・・・」
「何でしょう」
矢部というスーツの男性は、片眉を上げた。
ちょっと、嫌な仕草だ。だが、ここに来たからには目的を果たさないといけない。クソジジイを連れ戻すのだ。
「最近、というかついさっき、『ワシャ教授じゃ』というのが口癖のジジイが来ませんでしたか?」
「ああ。・・・彼なら、ほら、あっちに」
そう言って、矢部氏は右手を指差した。
そこには。
「うひょお! やっぱり、あの世というのは、ワシの大学と違うのお!! ピチピチのギャルが案内しておるとは!!」
「や、やめてください」
教授が、女性にちょっかいを出していた。
矢部氏と同じ個別案内係であろうスーツ姿の女性は、たしかに若くて綺麗だ。だが、明らかに教授を嫌がっていた。
「一発、ワシとやらんかのっ!?」
「冗談は、止めてください」
「冗談なものか。ワシャ、お前さんをヒイヒイ言わせる自信があるぞい」
「どこ触ってるんですかっ!」
「ミヨちゃんの、大きな胸じゃっ!」
「誰がミヨちゃんですか! クソ馴れ馴れしい!」
「三好と名乗ったのはそちらではないか! 大体何じゃその口のききかたは。ワシャ教授じゃぞ!」
そのやり取りをみていた矢部氏は、頭を押さえた。
「ああいうの、たまにいるんですよね」
「はあ・・・」
「あんまりうるさいと、ブラックリストに載るんですがね」
「ブラックリスト、ですか」
「ええ」
「載ると、どうなるんです」
「ま、沙汰に響くんですな」
「沙汰?」
「ああ、説明がまだでしたね、これは失礼。
沙汰というのは、いわゆる『地獄の沙汰』というやつです。閻魔大王に、今生での行いを裁いてもらって、今後どうなるのかが決まるわけですよ。で、その裁きというのを『沙汰』と呼んでいるわけです。
沙汰では、大体生前の行いしか見ないんですが、こっちに来てからの行いが悪いと、本来なら人間の世界に輪廻するのが畜生道やら餓鬼道やらに落とされることになったりしますな。
下手をすれば、地獄行きです」
「うへえ」
「とはいっても、ブラックリストに載ってるのは大体生前からロクでもないことばかりしているのが多いので、沙汰の結論は大して変わらんのですがね」
「なるほど」
たしかに、教授は畜生道か地獄辺りに行くだろうと鬼さんも話していた。ブラックリストに載ろうが載るまいが、結論は変わらないということか。
むう。わたしはどうなるんだろう・・・。って、あれ。
「あ、あの!」
「何でしょう」
「わたし、本格的に死んだんでしょうか? もう現世に戻れないってことですか?」
「ま、正確に言えばあの世の一歩手前ですな。ここは言ってみれば、この世とあの世の境目ですので。
とはいえ、そのうち戻る気も失せると思いますよ。何せ、ここから現世に戻るには、相当な力が要ります」
「ど、どのくらい」
「現世に対する執着心が必要です。たとえるなら・・・そう、マラソンに普段関心のない一般人が、フルマラソンで完走するくらいの精神の執着心が必要ですかな。
現世に戻るには、とにかく大変な苦痛を伴うようですよ」
「・・・そんなあ」
くそ、鬼のヤツ。わたしをこんなところに飛ばしやがって。
教授を連れて戻るとか、そういう問題じゃなくなったじゃないか。
「教授!」
「なんじゃ、助手。お前も死んだのか。おおかた鬼どもにヒイヒイよがらされて、そのまま腹上死じゃろう」
「それは教授でしょう! 教授と最後にエッチしてた鬼に、頭をぶん殴られてここに飛ばされたんですっ」
「そうか。若いのに残念じゃのう、カカ」
「誰のせいだと思ってるんですか!」
「おまえ自身のせいじゃろ? お前、ワシが女護島に行くのに勝手についてきたんじゃから、自業自得じゃ」
「・・・う、それはそうですけど・・・でも、おかげでこんな若いのにあの世に来ちゃったじゃないですか」
「ま、ここも悪くないぞい。こんな別嬪もおるし」
ほれ、といって教授は隣にいたスーツ姿の女性・・・ミヨちゃんに飛び掛った。
「な、何するんですか!」
「お前さん、みたところ人間そっくりじゃが、人間かえ?」
のしかかったまま、教授はミヨちゃんに訊いた。
「わたし、こう見えても人間じゃありませんよ。閻魔様にお仕えする鬼の一種ですから」
「くく、そうか。じゃあ、わしのエロテクによがり狂うこと間違いないの。ワシのテクは、女護島の108匹の鬼のお嬢様方をメロメロにしたんじゃからな」
「にょ、女護島・・・? あんなエロ鬼どもとわたしを、一緒にしないでください! わたしは人間の男から精気を吸うようなことはしません!」
「遠慮は無用じゃ。たっぷり、お前さんのナカにワシの精を注いでやるからの」
「ひいいいいいぃぃぃぃ!!!」
ミヨちゃんは鬼らしからぬ、甲高い悲鳴を上げた。
「や、矢部さん! 助けてください!」
ミヨちゃんは矢部氏に助けを求めた。
「い、いえ、僕、ケンカは苦手でして。上層部に報告して、すぐに助けを・・・」
「今すぐ助けなさいよ、この、役立たず!」
ミヨちゃんは、顔を真っ赤にして怒った。
教授はだらしのない顔をして、ミヨちゃんに言い寄る。
「わしのチンボウは、とっても役に立つぞい」
「黙れっ! この、人間を一人も抱いたことのない、人間童貞がっ!」
「な、何を言うか!」
「図星でしょ、図星なんでしょ!
フン、教えてあげるわ。
そんなジジイになるまで一度も人間とセックスしてないヤローはね! 人間失格ってことで、どっかヒドい場所に落とされるんだからね!」
え。マジ? じゃあ、わたしも人間相手だと処女だけど、そういうことになる・・・の?
ちょっとショックを受けるわたし。
矢部氏がそんなわたしをみて、すかさずフォローを入れる。
「大丈夫ですよ。アレは、彼女の出まかせです。あれが本当だとしたら、真剣なお坊様や尼さんがみんな地獄行きじゃないですか」
「そ、それもそうですね」
少しだけホッとした。
「人間童貞の癖にね、わたしとヤろうなんて、200万回転生してもドダイ無理な話ってことよ、このエロエロジジイが!」
「言いおったな・・・小娘が」
教授の目が怪しく光った。
そのまま、ゆらり、と教授が立ち上がる。
「な、何よ・・・」
異様なまでの殺気(?)を感じ、ミヨちゃんが後ずさりする。殺気といっても、ここで誰かを殺した場合どうなるのか、疑問だが。
「助手」
「は、はい」
「行くぞ」
「ど、どこへ・・・」
「現世に戻ると言っておるんじゃ。そこの小娘、ワシをバカにしおったからな。ちょっくら現世に戻って、人間の女を抱きまくることにするぞい。
よく考えると、たしかに人間のオナゴの味は知らんからの。そういうのを味わってから死ぬ方がいいわいの!」
「は、はあ」
「邪魔したな・・・ミヨちゃん。次に来るときは、ヒイヒイよがらせてやるから、覚悟しとくんじゃなあ、カカ」
「・・・・・・(ブルブルブル)」
「助手、何しとる、さっさと行くぞ」
「で、でも、どっちへ」
「ワシにつかまれ」
そういうと、教授はわたしをお姫様抱っこにした。
不覚にも、ちょっとトキめいてしまった。
「いくぞいっ!」
「あ、こら! どこへ行くんだ!」
矢部氏が怒鳴る。
「三途の川に落ちに行くに、きまっとるではないか!」
「いかん、ヤツらを止めろ!」
矢部氏が慌てたように携帯電話を掛ける。
携帯か。あの世でも、携帯電話ってあったんだ・・・。
そんな感心をしている暇もなく、たちまち、骸骨標本のような兵士が教授の前に何体も現れた。
「今のワシを止められると、思うてか!」
教授はわたしを背負うと、グーパンチ一発! 骸骨標本の一体が崩れた。
次に蹴りでもう一体!
チョップでも、もう一体!
・・・ツヨい。
「教授、めちゃめちゃ強いじゃないですか!」
「昔はオナゴにもてるため、空手やら格闘技やらを稽古したのじゃ。全然オナゴにはもてんかったがのう!」
・・・そうなんだ。
「ほれ、もう三途の川じゃ!」
「だ、大丈夫なんですか!?」
「三途の川に落ちれば生き返る。そんなもん、常識じゃろがい!」
「そ、そうなんですか!?」
矢部氏の話だと、メチャメチャ苦痛を味わうことになるということだったが。
案外、簡単だなあ・・・。
「まっておれ、現世のオナゴたち! ワシの腕の中で、昇天させてやるぞーい!」
どっぽーん。
河に飛び込んだ瞬間。
息がつまり、体中が熱くなり・・・つまり、『地獄から這い上がるような』苦しみを味わった。
前にも一度、こんなことがあったような・・・。
そうか。
わたしが赤ん坊として、この世に生まれたときだ。
あの世からこの世に戻るには、こういう苦痛を味わうんだ・・・。
ていうか、タスケテッ!!
クルシイ・・・・シヌっ!!
そして、光が見えた。
「・・・無事、帰ってきたわね。ちょっと意外ですわ」
目を開けると、鬼がいた。
「よくも、殺してくれましたね、この鬼野郎!」
「わたしは鬼ですわ。ま、ヤロウではなく、女ですけれど」
ホホホ、と鬼が笑う。
「助手よ、無事戻ってきたようじゃな」
教授がそう言いながら、ムク、と起き上がった。
「ええ、まあ・・・」
「さっさと戻るぞ、日本に」
教授はそう言った。
「あら、もうお帰りですの?」
「まあの。鬼の身体はゼッピンじゃが、人間のオナゴを一度抱いてみたくなっての」
「ふふ、欲張りですこと」
鬼さんは妖艶に、でもちょっと寂しそうに笑った。
「では、気をつけてお帰りくださーい」
成田行きの定期便。そんなものが、本当に女護島にあったとは。
鬼さんの一人が運転するチャーター機の後ろに、わたしと教授は乗っていた。
「とりあえずは、渋谷当たりじゃな。手当たり次第、ナンパすれば何とかなるじゃろ」
「あの、教授・・・できれば、人間の女はわたしで我慢してくだ・・・」
「若い娘がええのお。その後は、有閑マダムとかもええかもしれんがのお」
「・・・うう。教授のバカぁ・・・」
教授の顔は、だらしなく緩みきっている。こんなんで、女性が寄ってくるとは到底思えないのだが・・・しかし、教授の夢は、アホらしく膨らんでいくのだった。
わたしというものがありながら。
・・・ああ、カナシ。
で、この後は実際のところどうなったかって?
馬鹿馬鹿しいので、誰も興味はないでしょうね。きっとw
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